戦線 (中公文庫 は 54-3)
戦線 (中公文庫 は 54-3) / 感想・レビュー
よこ見
女流作家の日中戦争従軍記だが、戦闘よりは合間の行軍の場面が中心で、兵隊が戦友との思い出を語ったり、道端で摘んだ花で胸ポケットを飾ったりするような日常の一コマの描写が多い。だが、それよりも多いのが無邪気な戦争賛美の言葉であり、巻末の解説で佐藤卓己氏が書いた「感傷の横溢と思考の欠落のコントラストが、この作品を際立たせている」という一文は本作をよく表現している。正直今読んで面白い作品ではないし、当時の版元である朝日新聞社や取材に協力した関東軍などの動向が書かれた解説の方が学ぶところが多い。
2021/10/27
Gen Kato
「お国のため」という大義名分で煽られた戦争は人間の心を高揚させ、判断力を失わせる。「兵隊が好き」な一庶民・ひとりの女であった林芙美子だからこそ、の舞い上がりぶりに、怖さと痛々しさを感じる。自らが同じ轍を踏まぬよう心する、そのための書。(ちなみに併録『凍れる大地』は文化人ぽいので、時代の制約があるとはいえあまりに差別的な表現など、作家としてどうなんだろうかと批判的に読める。
2017/09/30
tekka
良くも悪くも、いや、悪い意味で当時の日本人の植民地に対する感覚がよくわかる。
2023/08/22
くらーく
本当に前線は大変だなあ、兵隊は辛いなあ、著者も身をもって経験して貴重なルポを送っているなあ、と思って読んだのですが。。。。 話を盛っていませんか?一週間ですよ。しかも、トラック、飛行機付きで。その辺は作家先生だからかしらねえ。 でも、その当時を思い図るに、女性がこのような体験をして新聞記事にすると、大きな反響があり、部数も伸びたようで。結局は、部数拡販の広告もあるのでしょうな。 穿った見方ですが。戦争に協力したというのは言い過ぎですが、そんな時代だったのだなと思います。 戦争になる前に何とかせねばねえ。
2017/08/05
cocobymidinette
この人の言葉は本当に、ギリギリの境遇になればなるほど、なんて研ぎ澄まされるのだろう。「戦線」従軍作家の手記を、こんなに惚れ惚れと読むことになるとは思わなかった。戦争中に国民により右を向かせるための文章なので、戦争や他国に対する表現に時折ぎょっとさせられるほど今の私たちの精神とは違うのに、それでも美しいものを美しいと思う心は同じなのだ。
2017/05/10
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