路上のジャズ (中公文庫 な)
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路上のジャズ (中公文庫 な) / 感想・レビュー
たーぼー
この暴力的筆致と傷だらけの精神こそが新年のめでたい席に相応しい。もはや、自慰的行為ともいえるJAZZと文学と人生の結びつけの鮮やかさに暗く、深い深淵に飲み込まれる思い。60年代の狂乱の匂いが漂ってくる。しかしだ!中上ともあろう御仁に注文をつけるのも、おこがましいがコルトレーンに触れるなら、『惑星空間』に踏み込んでほしかった。あれはコルトレーンが死を摑まえ宇宙に到達した無我の境地だ。でも中上は、JAZZに関わった己と他者との対話、死者との対話、ハドソン川に浮かんだサックス弾きを、より多く語りたかったんだな。
2017/01/02
路地
10年ほど前、中上健次にはまり貪り読んでいた時はジャズを良くわかっていなかった。そして今ジャズにはまり、ジャズを題材にした読み物を探すなかで見つけた本書。同時代の若者の音楽としてコルトレーンやエリックドルフィーを聞いた著者を羨ましく感じる。それにしても、薬と暴力、怠惰の破滅的な青春時代を新宿で過ごす健次とその仲間の様子は、現代のトー横を思わせる。作中で著者はロックを小ブルの物としているが、現代は本書の時代と同じような貧しさが戻ってきたのかと思う。
2024/04/13
原玉幸子
表題から「心地好い酒とジャズ」のエッセイを想像したのは大間違いでした。傷と毒と暴力の中上が何度も繰り返されるのにはげんなりしますが、それでも時に研ぎ澄まされた表現が「巧いっ!」と、ドキッとさせてくれるので、重複するところを差し引いてエッセンス読みするといい感じです。私個人はモダンジャズを中心に200枚程度のCDを持っていた「元ジャズを聴く人」なので、真の意味での、ジャズ=小説家=多神教=反ヨーロッパ、との感覚は、自分は斯くも劇的には語れませんが、じわじわっと「分かるわぁ」です。(◎2022年・秋)
2022/10/23
ぞしま
「灰色のコカコーラ」を読んで、追憶的に、青春に於けるジャズの受用の在り方を思った。私はハイミナールもドローランもキメたりしなかったが、フリージャズを聴き、拙い情熱を捧げた挙句、思い込み…音楽と言語の間で揺れていた…。10年前の地方都市でも残り香を感じ、それは今も自身に残っている。残り香と言ったが、ドンチェリーが歌ったようにそれは〈永遠の〉リズムなのだろう。本書が指摘したように、ジャズとは一回生の抜き差しならない経験であって。それが、作者にはアイラーであり、コルトレーンであり、デビスであったのだ。
2016/12/07
ネムル
10代の終わりから20代にかけて何か新しいものに焦がれ、ジャズという黒い太陽に身を焦がしたものとしては、60年代新宿を知ろうが知るまいが、とにかく泣ける。健次はジャズと新宿を語ることで単純に回想してるわけでもその時間を生き直しているわけでもない。これはレクイエムだ。70年、三島が割腹をすることでひとつの時代が終わり、アルバート・アイラーの自殺(三島と同年同日!)でもって健次のなかでジャズは葬られた。マイルスという天才を除いて、ジャズはサブカルくそBGMと堕した(チック・コリアとか別に嫌いじゃないんだがな)
2016/12/02
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