私の旧約聖書 (中公文庫 い 42-4)
私の旧約聖書 (中公文庫 い 42-4) / 感想・レビュー
hanchyan@だから お早うの朝はくる
いねむり先生こと色川武大による旧約聖書の読書ガイドてか感想文。旧約聖書を一個の創作ととらえたうえで「空想科学読本」ぽい感じのツッコミが入るのだが、初っ端から「アマチュア」「プロ」「エラー」「十九対二十一」~etc、とまあ、おなじみの言説から始まってまずは一安心(笑)。お好きな方は思わず「ざわ…ざわ…」てなっちゃうこと請け合い(笑)。全編を通じてしばしば老荘ぽさを感じるが、それは自分が常々「一匹狼のバクチ打ち」えお「小国寡民の究極形態」になぞらえて憧憬の念で視ているからからかもしれない。
2018/08/15
イプシロン
再読してつくづく思ったのは色川の洞察力の鋭さと思索の深さだ。空襲後の焼け野原に立ち、自分は虚飾(家屋やあらゆる人為的道具)の中で生きてきた、ほぼ確実なのは大地(大空、大海)といった自然だけだと気づく感性が凄い。すなわち、人為的なものを失っても狼狽しなくてよいと気づく場面が凄い。だとしても、その自然も常に動的であり、自分がいる場所を規定する基準点にならないと気づく。伝道の書にある「空の空」辺りがそこだろう。であるなら、自分の仕事を楽しむという、分を知った生き方しかない気がする。しかしそれでも基準点が欲しい。
2019/03/09
イプシロン
本書は旧約聖書を親しみやすく繙いた著作ではない。旧約の流れを概述しつつ、色川の人生観によって神と人との距離感が思索されていくもの。無宗教、中立的という視線から考察された内容は鋭く興味深かった。神を擬人化しているだけに、神の仕業=自然の摂理といえない面があり、神と人との「契約」を守るのは、人間にとって困難であろうという考察は鋭い。そうしてみると、モーセの十戒をはじめとする種々の「律法」は神と人の中間に位置し、なんとか守れる気がするように思えた。人間社会に大切なものは、「契約」ではなく「律法」なのだろう。
2018/07/12
さっちも
人生においてあと2、3回読むのではないかと思った。砂漠の思想なんですよね。シビアな世界のシビアな生き残りをかけたメソッド。用心深く、クレバーで、抜け目がない人間が繁栄する。のび太やオバQが主人公になりえるトリックスター歓迎の調和を重きにおいた村社会と根本的に違う。語るほどに本書の重さからかけ離れていくようなのでこれくらいに。
2023/03/15
澤水月
空襲体験で家・畳・布団などすべて焼け、「地面というのは、泥だ」という痛感が根源、「認識の軸」にある。初期連載名が「はぐれ者の旧約聖書」であるように自身文字通りの一匹狼感、「しのぐ」嗅覚を頼りに生きてきた筆者にとって旧約聖書は信じる対象ではないけれど折にふれ思い返す気になる存在。旧約に綴られる物語、イェホバと人とが交わした契約のヒリつくやりとりを「カードの差配」で例えるのはさすが麻雀作家!「編纂者というか、作者というか」「鋭い設定を考える」…など歴史フィクションと見た捉え方も面白い。(コメントへ続
2020/01/16
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