賢者の愛 (中公文庫 や 65-1)
賢者の愛 (中公文庫 や 65-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
山田詠美は久しぶりだが、本書の文体はこれまでのものとはずいぶんと違う。エピローグにあたる最終章以外は真由子の語りなのだが、それが「です・ます調」であるために、いつものあの、断定的でキップの良い山田詠美が影を潜めているのだ。東京の山の手で、少なくても3代続いた裕福な家に生まれ育った真由子、という設定なので無理はないのだが。内容的には、女性版「若紫」願望が濃厚に反映されたもの。ただし、その完成形が教養もなく、性の技術にだけ長けた青年の直巳とはいささか寂しい限り。山田詠美の作家生活30年記念作品なのだそうだが。
2020/01/17
さてさて
『かつて親友だった女の息子』という直巳と幼い頃から関係を築いてきた真由子の『復讐』の物語が描かれたこの作品。そこには、谷崎潤一郎さんの「痴人の愛」を下地にした物語が描かれていました。独特な文体が引っ掛かりではなく読みやすさをもたらすのを感じるこの作品。二十一歳差の女と男の関係性を描く中に大量の性描写が強いインパクトを与えるこの作品。あまりにかっ飛んだ物語の中に「ぼくは勉強ができない」の『時田秀美』というまさかの名前の登場にも思わずニンマリとしてしまう、山田詠美さんの円熟した筆の魅力を堪能できる作品でした。
2023/05/25
ろくせい@やまもとかねよし
前知識なしに読了した率直な感想は傑作。全体を俯瞰する主題を探ろうと思考したが、ピントが合わない。解説にあった谷崎潤一郎さんの「痴人の愛」への挑戦のヒントにもピンとこない。やはり、女性の「性」と「生」が主題なのだろうか。作中「小説家は痴人と賢者のために存在する書記」と表現する。筆舌しがたい人間の純粋さを、その精密性や大人と子供の境界で挑戦する課題だったのか。実際、中盤に主人公は「言葉は完全犯罪の凶器」と述べている。意識への言葉による挑戦だったか。いずれにしても主題探しで作中をじっくり味わう稀有な作品だった。
2019/01/20
びす男
「痴人を極められる者は、常識的であることに満足することよりも、人生をより深く堪能できるのでは…」。復讐のつもりで入った痴人の道。それは彼女が思うよりずっと深かった■谷崎潤一郎の「痴人の愛」をリメーク。不朽の名著が、本作では、女が少年に男女のイロハを教え込む構図に逆転する。「どんな贅沢をしようかと考える時が、ほんとは一番、贅沢なのよ」■思わず「山田先生…」と言いたくなる甘酸っぱい説教臭さと、引きずり込まれるような展開、その先に待つ急転直下の幕引き。それらの匙加減が、いやらしくない程度に絶妙だった。たまらん。
2018/02/07
Shoji
単行本で読んでいたのですが、文庫本を入手する機会があり、再読になります。再読にも関わらず、新鮮味に溢れていました。真由子は百合から大切なものを略奪するのですが、その執念たるや凄まじいです。いや、百合が真由子から略奪したとも言えなくもない。怖い。そして、最後は有り得ない結末です。私には怖い物語でした。とても恋愛小説などと呼べるものではありませんでした。ところで、時田秀美クン、お元気でご活躍のようで。良かった良かった!
2018/03/13
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