安岡章太郎 戦争小説集成 (中公文庫 や 1-2)
安岡章太郎 戦争小説集成 (中公文庫 や 1-2) / 感想・レビュー
松本直哉
反抗としての消化器。そんなことを考えながら「遁走」を読む。兵士が頭から足の先まで管理されても、消化器だけはだれにも(本人にも)管理できず、それは最後に残る人間の尊厳かもしれない。兵営での抗しがたい食欲、その必然の結果としての下痢、駆け込んだ便所で用を足す間に部隊が出発してしまって一人だけあとに残される悲喜劇。下痢のおかげで命拾いしたといえようか。紛失した銃の部品を探して皆で便壺をかきだし、最後には下士官が褌一丁になってそこに潜る情景にも啞然。そんなにまでして合わせねばならない員数。下士官のプライドの滑稽。
2020/12/22
Tadashi_N
戦わない戦争小説。戦場より病院が舞台。
2021/01/20
真琴
★★★★★ 『遁走』戦わず一滴の血も流れない戦争小説。主な舞台は病院。病院であっても初年兵に対する理不尽な扱いは戦地と変わらず、すべてのことが管理、監視の対象になる。しかしその中で、消化器だけは誰にもコントロールできない。排泄や食器(食事)の表現が多いのは、上官であってもコントロールできないことを訴えたかったのか。巻末の開高健との対談は、お互いの戦争(文学)に対しての考えが述べられていて必読だと思う。最大の戦争文学は『教育勅語』ではないか、という点は新鮮だった。
2023/07/23
CTC
昨年6月の中公文庫新刊。初出は『群像』や『文學界』等の文芸誌で、巻末には開高健との対談を収録。安岡章太郎は割と赤裸々に私小説を書いた人とされているそうだ。陸軍獣医少将の息子であるが慶大在学中に召集され満州981部隊(第1師団ですね)に配属、比島に移る直前に発熱し終戦のひと月ほど前に結核で除隊している。本書は戦時を舞台とする6つの掌編からなり、射撃の腕は滅法いいが、あまり器用ではなく体の弱い“安木加介”という二等兵が主人公だ。内務班や病院での理不尽な現実も、諦観とある種の明るさを持って記されている。
2019/02/02
Mikio Katayama
満州での軍隊生活の倦怠と頽廃を描いた「遁走」は、戦争小説の傑作。
2018/12/08
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