四捨五入殺人事件 (中公文庫 い 35-25)
四捨五入殺人事件 (中公文庫 い 35-25) / 感想・レビュー
しんたろー
『吉里吉里人』以来、30年以上ぶりの井上ひさしさん…書店で「井上さんがクローズドサークル・ミステリ?!」と気になって買ってみた。作家二人が東北の山奥で密室殺人に遭遇する話は、当時の農業問題と哀しい歴史を交えているが、重苦しくなることなく軽快に進む。40年以上前に書かれた作品だが古臭さは感じず、劇作家ならではの会話の妙、実在する有名作家いじり、目に浮かぶ場面描写でサクサク楽しめた。ミステリとしては「中の上」クラスだと思うが、丁寧に伏線を張ってあるし、ミスリードや軽いどんでん返しも用意されていて面白かった。
2020/09/01
ちょこまーぶる
とっても面白かった一冊でした。流石に作者の筆力に圧倒されてしまって、ページを捲るスピードが速かったですね。しかも、人を騙すことって何てスッキリするんでしょうね。多少時代の古さも感じますが、知識の無かった地方の農業問題の知識も身に付いたような感じもするし、現実にこのような事件が起こっても不思議じゃないよなと妙に納得してしまいしたね。そして、僕は勝手にラストに騙した農民たちが、実際は本当に殺人事件を起こしていて、それを隠すために作家二人の著書を元に芝居をしていたという展開を妄想しました。楽しい読書時間でした。
2023/04/02
えみ
読者の反応まで組み込まれて完成されるよう設計されたような軽快な殺人事件。恐らく十分期待に応えた感想をもった私はきっと良い読者でしょう。井上ひさしワールドが満喫できる誰にでも平等な謎解き事件。解決編をあえて残し、仲間や家族と推理合戦をしたくなる。老若男女誰でも楽しめてしまう謎解き小説、巧みな演出が至る所に鏤められていて「そこ自分で見付けたかった!」と悔しくなること2、3回。事件の内容というよりは宝探しゲームをするように著者が巧みにヒントを残しながら隠した真相への手掛かりを拾いだしていくのを楽しむ小説だった。
2020/12/31
つねじろう
先生、最初は遅筆が故に手近な所から話を始めたなと思ったりしましたが筆を進める内に興が乗ってきたのか語り口にリズムが生まれ一気に得意の展開になりましたね。そうなると手に負えない。後付けであろうがなんだろうがマキビシのように伏線の種をばら撒き立派なミステリーに仕上りました。まあそうなるのも先生の大作家的な権威がなせる技かもしれませんがそれを意識させない程の巧妙なテクニックに唸る他はありません。特に先生が良くテーマに織り込む中央と地方の問題や農業問題なんかを後半しっかり語って行くところなんざ胸を打たれましたぜ。
2020/09/13
ミスターテリ―(飛雲)
井上先生はいつも題名も深く考え、少しひねり、そしてユーモアを。かつて犯人は読んでいる読者自身だという小説があったが、この作品も農業問題は当然地域によって対策は違うはずだが、一人一人の意見をていねいに聞くことなく、四以下は国の都合で切り捨てられ、最後には四捨五入をして意見をまとめてしまう国の政策を皮肉る。ーそして主人公の大先生の、農業などなるようになると書いたエッセイから事件が起きる。テンポのいいセリフの言いましや言葉遊び、それにミステリーの要素を混ぜて、農業問題も少し考え、今回も十分に楽しませてもらった。
2023/08/21
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