千の扉 (中公文庫 し 54-1)
千の扉 (中公文庫 し 54-1) / 感想・レビュー
ふじさん
千歳は、夫の一俊の祖父・勝男から、「高橋」という男の人を探すことを頼まれる。都営住宅で暮らす人々の戦争から現在までの70年という歳月に綴られた膨大な人生が、静かで、淡々とした、簡潔な、しかし優しい言葉で描かれていく。ささやかに日常を描きながら、実にはとても重厚な家族の歴史物語でもある。千歳・一俊の夫婦の成長のドラマとも言える。「高橋」に関わる祖父・勝男の人生が味わい深く、心に染み入る。登場人物一人ひとりの個性が丁寧に描かれ、作品に深みを与えている。あまり手にすることのない作品だった。
2022/08/27
はるを
🌟🌟🌟🌟🌟。読了記録400冊目は、あらすじを書くのが難しい、感想を書くのはもっと難しい、だけど柴崎友香らしい一冊。コレを読んで「やっぱり俺は柴崎友香が好きなんだ。」と再確認した。まるで一本の映画を観ているような視点の置き方。登場人物達の物語を遡って情景と共に綴っていきその真実に共感したり察してあげたり読者も一緒にタイムループしていく。予定調和な感じがしない、ごく自然な流れで進んでいく日常生活物語。なのに適度にエンタメ感も感じさせて読んでいて本当に心地良かった。🌟5つだけど読む人を選ぶかも。
2021/12/31
るい
窓辺や建物の周りをふわふわと漂いながらそこで生きる人々を俯瞰している感じ。時代や背景、主な人物も目まぐるしく変わっていくのが夢物語のような頼りなさ。淡々としすぎていてどんな話だったのかすでに忘れかけているけれど…( ̄▽ ̄;)
2021/10/02
エドワード
あけましておめでとうございます。空間に堆積する時間に思いをはせる、柴崎友香さんの真骨頂。新婚の一俊と千歳の夫婦は、骨折した一俊の祖父・勝男が暮らす団地の一室でしばらく暮らすことになる。勝男が四十年以上暮らす、三十四号棟まである巨大な団地、これは新宿区戸山ハイツだな。勝男から、団地に住む昔の知人を探してと頼まれた千歳が、興味の赴くままに発見したのは、千の扉の向こうの夥しい暮らしの記憶だ。一俊の両親、道俊と圭子、祖母の花江等、現在と過去を行き来して描かれる、戦後70年の生活の層の厚さ、優しい眼差しが印象的だ。
2021/01/02
ゆきらぱ
さすが〜面白い。大阪弁の千歳が新宿の巨大な古い団地で新婚生活を送り始めるのだが、千歳の立場から見ると東京の人たちって何考えてるかわからないなあと感じてしまう。千歳も心細かろうと思ってしまった。しかし千歳はそんな素振りは見せずに期限付きの住まいでの暮らしを楽しんでいた。この話にはたくさんの人物が出ては人生の一部分を見せてくれる。それらはお互い知らないままですれ違ってゆく。こんな風に世の中で人生は重なるんだなと感じた。
2020/11/27
感想・レビューをもっと見る