落花 (中公文庫 さ 74-2)
落花 (中公文庫 さ 74-2) / 感想・レビュー
NAO
平将門の乱を都から下ってきた僧寛朝の目を通して描いた作品。乱暴狼藉者として忌み嫌われた平将門。内心では平将門を馬鹿にしているくせに将門にへつらう地方豪族。父親との鬱屈を胸に燻らせている寛朝。名器を手に入れさえすれば出世できると野心を剥き出しにしている千歳。さまざまな人間模様が詳細に描かれることで、坂東の荒々しさがリアルなものになっている。タイトル『落花』は、『和漢朗詠集』所収の〈朝踏落花〉から採られたという。作中でも、印象的な場面で何度も詠われている。
2024/08/18
エドワード
10世紀。天皇の従兄である僧侶の寛朝は幻の楽師・豊原是緒と琵琶の名器・有明を求めて関東へ下る。彼の従僕の千歳も有明を手にする野望を抱いていた。彼らの見た関東は、国司自ら野盗となり相争う壮絶な戦場だった。都とは全く異なる地で逞しく生きる平将門と彼に従う豪族たちや傀儡女たち、様々なめぐり逢い、仏教音楽の奥深さ、戦の臨場感に圧倒される。「自らの故郷を守ろうとする将門は、この地のことなど何一つ知らぬ帝よりもはるかに坂東の王にふさわしい。」都人の視線から、次第に関東人へと移りゆく寛朝。諸行は無常。平家物語・序章。
2022/01/15
niisun
天平期のパンデミックを描いた澤田さんの『火定』と同様、人間の“業”を表現した作品ですね。真言宗の梵唄を大成させた若き日の寛朝を主人公に、彼の眼を通して見た弱肉強食の坂東の地の有り様が語られています。帝の統べる京の世界を織り成す音曲を至誠のものとする価値観を根底から覆す、欲を剥き出しにした坂東の至誠の声を聴き、『理趣経』を真髄に至る寛朝。この経験が梵唄の大成につながったんでしょうね。我が家も真言宗なので、梵唄(声明の方が一般的な気がしますが)は聴いたことはありますが、もっとしっかり聴いてみようと思います。
2022/07/31
みこ
宇多法皇の孫でありながら仁和寺の僧侶である寛朝はある目的をもって関東に下り、そこで平将門と出会う。どうしても主人公が乱の当事者でないため、時折登場人物の台詞で状況説明をしている点に読みづらさがあったものの、他は当時の人々が貧しいながらも力強く生きている世情を体感できる文章で非常に面白かった。敵味方を問わず信念をもって生きている人物は力強く、そうでない人間は醜く描写される。戦乱を経て失いはしても誰も得をしない読後感はただ無常の一言に尽きる。
2022/02/07
Y.yamabuki
寛朝は至声の声を求め、坂東の地に遣ってくる。当初の彼は父敦実親王への屈託を抱え、野心家のように見える。それが、将門と出会い坂東のの人々と交わるうちに、彼の視線は都からかの地へと移って行く。そして、彼は真に自身が求めていたものを知る。その寛朝の視点で、将門が戦へと追い立てられていった過程が描かれ、後半部は冒険物のような臨場感が有る。千歳、異羽丸、傀儡船の如意やあこやにも各々のストーリーが有り、読み応え十分だった。
2022/02/09
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