歌のわかれ・五勺の酒 (中公文庫 な)
歌のわかれ・五勺の酒 (中公文庫 な) / 感想・レビュー
佐島楓
「歌のわかれ」「村の家」は講談社文芸文庫で読了。したはずなのだが、「村の家」の主人公の老父の思いにぐっときた。息子は東京で思想活動の末投獄され、故郷に戻ってくる。老父はそれまでの苦労を訥々と息子に語り聞かせる。苦しい毎日のうえで何とかやりくりをしてしのぎ、家を守ってきた父親と、それでも文筆活動を続けたいと願う息子。このふたりの断絶と乖離がたまらなくつらい。理想だけでものを食べていけるわけではない。お互い苦しかっただろう。今回はお父さんのほうに感情移入して読んだ。転向を扱った文学として白眉。
2022/01/12
あや
講談社文芸文庫で読んだ「歌のわかれ」「村の家」は飛ばして読んだ。「米配給所は残るか」が良かった。中野重治は卒業旅行でお墓参りに行くほど好きなので、「歌のわかれ」や「村の家」が読みやすい文庫でまた刊行されたことが嬉しいのですが、また長らく積読にしたまま読み終えるのに時間がかかってしまった。石井桃子さんや野坂昭如さんの解説が読めるところも良い。
2024/06/13
うさぎ
「自分全部を与えることが許されぬとわかった僕は五分の四の自分を与えようとした。それが許されぬとわかったときは二分の一を与えようとした。それが駄目とわかったときは三分の一、つぎは四分の一、つぎは五分の一を与えようとした。最後には何分の一でなくただ僕自身の僕による何かを与えようとした」(『五勺の酒』)
2023/03/01
kentaro mori
収録作は『大江健三郎柄谷行人全対話』をふまえているとしか思えなく、ありがたい。今となっては、プロレタリア文学との距離を感じざるを得ないが、『村の家』、『五勺の酒』は傑作。大江が影響を受け続けたというのも納得。プロレタリアでありながら、その立場の曖昧さ、この宙吊り状態。●「わたしらは侮辱のなかに生きています。」(春さきの風)●つまりあそこには家庭がない。家族もない。どこまで行っても政治的表現としてほかそれがないのだ。ほんとうに気の毒だ。羞恥を失ったものとしてしか行動できぬこと、これが彼らの最大のかなしみだ。
2022/11/26
ぼっせぃー
「春さきの風」「村の家」「広重」「米配給所は残るか」「五勺の酒」「萩のもんかきや」。天皇制や共産主義なる大義と言われるものに酔えた時代、それを懐かしむ様子にはクドさを感じる。しかし、転向の予兆を秘めた「歌のわかれ」から「村の家」「米配給所は残るか」を経て「五勺の酒」「萩のもんかきや」へ至る軌跡が示す、人間がようやく分かった、というようなヤレ・スレ方には魅力を感じた。「村の家」でアホタレインテリ息子にせめてバカは止めろと70年を恥じることなく生きてきた父親が仔細な金勘定を持ち出してまで叱り飛ばす下りがよい。
2022/01/20
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