人魚の嘆き・魔術師 (中公文庫 た 30-61)
人魚の嘆き・魔術師 (中公文庫 た 30-61) / 感想・レビュー
buchipanda3
著者初期(大正六年)の二編。題名と表紙が醸し出すように幻想小説であり、古風な文体で綴られる寓話めいた奇想のストーリー、さらに水島爾保布による妖美な挿画と相まって好みの風味の作品だった。元々、既刊の二篇を抜き出して改めて挿絵本として出されたものらしく、なるほどこちらは挿画と文が誘う世界に耽溺するものなのだ。どちらの話も現実のようで、僅かな隙間から非現実的な人魚や魔術師が入り込んで来たかのよう。それらが違和感なく溶け込むのはすべてを呑み込む夢の中に居るからだろうか。結末を迎えてもその存在が仄かに残されていた。
2022/10/06
アキ
大正六年(1917)に発表された「人魚の嘆き」「魔術師」を当時の水島爾保布による挿画を再現した文庫。オスカー・ワイルド「サロメ」に似た線画と退廃的な雰囲気に凝った文章。「作者が彫心鏤骨の苦しみをもって書いたものであり、当時の文壇では評判の高かった作品ではあるが、今読んでみると、苦心して書いたものが必ずしも寿命が長いとは限らないことを発見する」昭和三年の谷崎の言葉。むしろ、作中にも出てくる「ポオの恐怖と狂想と神秘との巧緻な糸で織りなされた妖しい物語」であり、その時代を表す表現を生みだしたことが理解できる。
2022/10/24
榊原 香織
大正の耽美 あからさまな西欧礼拝にびっくりした。 ”魔術師”は意外にも日本の探偵小説の元(推理じゃないのに?) 乱歩と横溝にどっぷり影響。 挿絵、水島爾保布(にほふ)本名だそうでまたビックリ
2022/12/22
Vakira
ビアズリーを連想させる水島爾保布の描く人魚の艶めかしい表紙絵と谷崎潤一郎の小説。ナイスバディ。嬉しいのは表紙だけでなく数ページ毎に挿入させる挿絵も水島爾保布。水嶋爾保布さんの挿絵目当てに読みました。1917年の作品。もう105年も前の作品。妖美を表す当時の単語が盛りだくさん。注釈と照らし合わせながら読みました。当時の単語知れてうれしい。そして解説に前田恭二による「水島爾保布小伝」。水島さん、なかなかの変態でこれもまた嬉しい。
2022/10/04
tulip
これでもかと装飾された言葉の数々に圧倒されながら、美しく怪しい物語の世界に浸りました。オーブリー・ビアズリーを思わせる挿絵が谷崎文学にぴたりとはまっておりました。解説の水島爾保布小伝で画家の天邪鬼ぶりを興味深く読みました。
2024/05/04
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