ぼくのミステリ・マップ-推理評論・エッセイ集成 (中公文庫 た 43-3)
ぼくのミステリ・マップ-推理評論・エッセイ集成 (中公文庫 た 43-3) / 感想・レビュー
アナーキー靴下
著者のエッセイはほぼ読んだことがなかったし、クリスティもダールも最近まで読まず、早川の編集長、翻訳者としての田村隆一はあまり知らなかった。神のパンとしてミステリに舵を切ったという著者のミステリ論は、あっけらかんとしつつも鋭く時代を見つめてきたことを窺わせる。民主主義は探偵小説を発達させる土壌、エンターテインメントは多様な目的を持つごちそうでそれにこたえられる社会が出てきた、ユーモアとは視点を変えることである意味苦いもの、等々、得心する言葉が多かった。笑える話も多いが、読みたくなったミステリも多数。
2023/05/21
へくとぱすかる
戦後詩に大きな足跡を残した詩人は、早期のハヤカワ・ミステリにかかわり、ミステリの翻訳者、編集長としての功績は、実は想像以上のものだった。言及されているのは、ほとんど全部が今は翻訳ミステリの古典だが、出版の当事者として、また詩人としての視線から作品をとらえているので、これまで読んだことのないような感触があって、読み応え十分だった。クリスティとの架空対談とか、創作者としてのユーモアいっぱいである。笑いなどではなく、余裕をもった態度としてのユーモアは、多様性(と本格ミステリ)を容認できる民主主義だからこそ。
2023/04/05
ハスゴン
もちろん故人の本なので、取り上げられている作品も古く新訳が出てきて見かける機会は少なくなりましたが、貴重な対談も読めて良かったです。ひっそりと発行されたので是非読んでみてください。
2023/05/09
Inzaghico (Etsuko Oshita)
早川書房で同僚だった作家の生島治郎との対談が、仲がいいから弾んでいるのが、字面のテンポのよさからも伝わってくる。先輩後輩なんて野暮なこと言わないのがいいよね。田村がしきりに強調する「ユーモアのセンス」は人生の苦さと表裏一体、っていうのは大事な要素だ。チャプリンの「人生はクロースアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」というのと相通ずる。ユーモアは、けっして何にも考えないで笑える「お笑い」ではない。
2023/03/02
Susumu Kobayashi
作者独特の文明観がいい。対談で本質的なことを述べている。「だけどぼくは結局(中略)どういう環境におかれようとも、ユーモアのセンスを持つということよ。それが文明なんだから」(p. 356)。「むしろ日本の文学が近代性を持ってきたのは、我田引水かもしれぬが、戦後の探偵小説の普及にありますね。それから、そういう読者をつくったということ」(p. 358)。誤植らしいのが散見されるのが残念。解説→解読(p.77)、騎手→旗手(p.128)、予備軍→予備校(p.364)
2023/03/12
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