必要になったら電話をかけて (村上春樹翻訳ライブラリー c- 11)
必要になったら電話をかけて (村上春樹翻訳ライブラリー c- 11) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
村上春樹が翻訳者でなければ、おそらくカーヴァーを読むことはなかっただろう。そうすると、20世紀アメリカ文学についての、ある一側面を知ることもできなかったことになる。本書に収録された5つの短篇は、いずれもカーヴァーの没後に発見された遺稿を編集したものであるが、そうは思えないくらいに短篇集としての統一感を持っている。いずれの物語にも、大きな事件が起こる訳でもなく、もはや若くないカップルのいわば淡々とした日常が描かれるのだが、そこには生きていることの確かさのようなものが強いリアリティを持って迫ってくるのである。
2013/02/05
おしゃべりメガネ
作者の没後10年の時を経て、世の中にあらわれた未発表作品5編です。レイモンド・カーヴァー氏の魅力、作風云々はさておき、とにかく村上春樹氏が訳してる以上、本作はどこをどうとってもハルキ臭がプンプン漂ってきます。だからこそなのか、決して読みやすいとは言いがたい文章が少なくはありませんが、質の高い文章を読ませていただいてる満足感が道溢れます。で、面白かったの?と聞かれると答えに困ってしまうのも否定はできませんが、決して面白くないワケではなく、カーヴァーの世界観が十分に楽しめきれてない自分がいるんだと思います。
2020/08/31
kazi
レイモンド・カーヴァーの死後に発見された未発表作品集です。この著者は本当に噛めば噛むほど味が出るスルメみたいな作家だなと思う。村上春樹さんの猛プッシュに押されて初めて読んだ時は、この人が描く貧乏たらしくて薄汚い雰囲気をもった作品たちの何が良いのかさっぱりわからなかったが、折に触れて読み返したり人生の経験を積んでいく中で、自分の中でジワジワと醸造されて良いものになってきた感じです。“薪割り”とか“必要になったら電話をかけて”とか、本当にカーヴァーの作品でしか味わえないオリジナルなものがあると思う。
2022/06/16
Y2K☮
多くの未発表作品集がそうであるように十分楽しめる。と同時に何かひとつスパイスが足りない。そしてそのスパイスを加えて再構成した著者の別作品を連想できたので「ああそういう事か」と腑に落ちた。何かひとつ。その何気ない紙一重の有無が小説を傑作にも駄作にもしてしまう。表題作の結末は訳者的には不満みたいだが、これはこれでモーム風味で悪くない。でもこの中なら(訳者と同意見になってしまうが)「どれを見たい?」がベストかな。好きなのは「破壊者たち」だけど、もう少し具材を選別して煮込んだら。長編がひと段落したら短編を書こう。
2019/07/30
ましゃ
読友さんより「結婚・離婚・ダブル不倫」と本書を紹介され気になっていた短編集。どれも上手くいってない夫婦がメインの話で緊迫してるんですが、そこはアメリカ‥巧みな会話と雰囲気が出てる訳文はむしろ読んでて心地良かった。周りの人達はみんな親切にしてくれて生活に不満は一切ないのに夫婦の関係だけは疲弊している。夫婦っていうのはどちらかに気持ちのズレが生じるといとも簡単に気持ちが離れていくものなのかと考えさせられちゃいました。どれも読んでてもどかしいんですが、これがリアルな大人の恋愛模様でありアメリカ文学なんだと思う。
2017/11/17
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