ビギナーズ (村上春樹翻訳ライブラリー c- 12)
ビギナーズ (村上春樹翻訳ライブラリー c- 12) / 感想・レビュー
kazi
ミニマリズムと称される超切れ味重視の文体で一世を風靡したレイモンドカーヴァー。しかし、その文体の裏には超アグレッシブな強権的編集者ゴードンリッシュの編集があった。本作はリッシュによる大幅な改編を受けた初期短編集「愛について語るときに我々の語ること」の改編前オリジナル原稿です。作品そのものも面白いのだが、この辺の作品成立の経緯は非常に興味深いですね。私たち読者は「神」である作家がオリジナリティー創造性を発揮して、全ての創造物を自らの手でコントロールしていると思い込んでいるが、意外とそういうことではないのね。
2022/02/20
踊る猫
個人的な繰り言を書けば、私自身酒を断って断酒会に通っている身なので断酒して小説を書くことを選んだカーヴァーの本気度がまざまざと伝わって来るかのような一冊となっているように思う。確かに冗長なところはあるかもしれないけれど、個人的にはこのくらいの緩やかさが好みなのでその辺り甲乙つけ難いと言える。死と生、人生の意味とはなにか……そういう問題を、軽やかな題材を扱いながら重く表現してみせるところが素晴らしいと思わされた。カーヴァーの作品、今後も村上春樹訳による全集を読んでいきたいと思わされた。なかなか奥が深い世界だ
2019/01/10
梟をめぐる読書
編集の手によって作者の意に沿わない形での大胆な改変が施されていたことが死語明らかになった短編集『愛について語るときに我々の語ること』の、原文発掘オリジナル版。当時カーヴァーの小説を担当していたゴードン・リッシュによるカッティングがいかに熾烈なものであったかは、本文の量が『愛について~』と比べて二百頁近くも膨れ上がっている、という事実だけで十分だろう。それを糾弾するつもりはない。なぜなら『愛について~』の出版によって、カーヴァーは初めてカーヴァーに「なった」のだから。
2015/10/26
春ドーナツ
「静けさ」は印象深かった。関連性、というか主人公の内面描写が省略されているので物語の余韻が言語化できない。わからないなりに、狩猟話に潜むサジェスチョンの存在、その場所の当たりはつく。グレイス・ペイリーの言葉を借りるなら、床屋で「最後の瞬間のすごく大きな変化」があったようだ。言わずもがなと心得ている男たちと不条理に惑い怒りをあらわにした男がいる。主人公はそのどちらにも属してはいない(と思う)。けれども彼にとって、何かが人生のターニングポイントになったのだ。回想することで、見えなかったものが見えるようになる。
2020/05/01
北風
大聖堂が大変感銘を受けたので、GWの楽しみに読んだのですが、まさかのウツ展開で気が滅入って、途中で別の本を読みました。最初はよかったんですが、途中から不倫、浮気、暴力、死体……、まさかこんな気が滅入る短編が立て続けに来ると思っていなかったので、うつうつしてしまいました。最後は流し読みしてしまった。ああ、世の中にはこんな不幸と衝動と怒りと悲しみがあるのだと突きつけられる。他人という存在と暴力に、どうしようもなく苦しめられた。
2022/05/10
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