師父の遺言
師父の遺言 / 感想・レビュー
どんぐり
松井今朝子の実家は京都・祇園の料亭で、出自は梨園と関わりある。松井が武智鉄二に初めて会ったのは、彼が65歳の頃である。1912年生れの武智が1988年に亡くなっていることから、その交友は約10年ということになる。演劇評論家・演出家・映画監督として有名にした作品に、愛染恭子と佐藤慶のセックス・シーンが話題の『白日夢』がある。本書は松井が武智に師事して歌舞伎の脚色・演出・評論を手がけるなかで師父から受けた影響を記している。「私は武智鉄二という男に惚れてしまったのだ」とあるが、武智のそれは父性愛だったようだ。
2015/03/17
ヨーイチ
大変、感銘を受けたと云うべきなのだろう。松井今朝子さんの名前を知ったのはいつ頃だろう。「仲蔵狂乱」では無かったか。小生と同世代で江戸時代の歌舞伎役者を扱った小説を世に問うとは、どんな人なのだろう、と云うのが入り口。歌舞伎には少々思い入れが有るので、一層作者の名前は気になったのだろう。作家としては新人でも、歌舞伎の知識が付け焼刃で無いのはスグに分かり、マツイケサコの重要度は更にあがった。プロフィールでは京都の玄人筋出身、早稲田大学、松竹勤務と表面的には歌舞伎を学ぶ上ではエリートコースが並ぶ。続く
2014/05/19
くみこ
名前しか知らなかった武智鉄二は、歌舞伎以外にも、能や文楽、オペラや映画の演出も手がけた多才な人でした。師父と慕う武智を描きながら、松井今朝子さんの半生にも惹かれるものがあります。歌舞伎役者の縁戚で、著名人が出入りする祇園町の料理屋育ち。芸事や歌舞伎が常に身近にあっての、その後の展開だったのでしょうか。"歌舞伎外伝"としても面白く、演劇や歌舞伎に対する解説、歌舞伎役者の素顔、芸能史としての楽しみなど、読み応え充分です。本文中にもありましたが、どこを掘り下げても数冊の小説が出来そうでした。
2022/03/02
カピバラ
物語かと思いきや、自叙伝でした。作家としての松井今朝子さんの博学さ(特に古典芸能)には舌を巻いていましたが、彼女の生い立ちに関係していたのですね。
2014/06/10
タツ フカガワ
今年いちばん読んだ作家が松井さん、ハズレなしの面白さがその理由です。その自伝本にある「師父」とは、稀代の演出家にして昭和の怪人と言われた武智鉄二。この人との出会いがいまの松井さんに繋がる。当然歌舞伎にまつわる話が多く、これがまた面白く奥が深い。そこから、これまで読んだ作品の裏側を垣間見るように楽しみました。しかし松井さんも相当「変な子ども」だった。
2017/12/27
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