国のない男
国のない男 / 感想・レビュー
ヴェネツィア
ヴォネガットの遺作エッセイ。とはいうものの、私にとっては初ヴォネガット。彼こそは真の意味でのリベラリストだろう。本人の弁では人間主義者ということなのだが。しかも、82歳にしてまったく衰えることのない批判精神。しかも、それをユーモアを持って語ることのできる数少ない作家のひとりだ。例えば―「うちの大統領(ブッシュ)はクリスチャンだって? アドルフ・ヒトラーもそうだった」。アメリカを愛するが故に、今のアメリカのあり方が肯定できないのだ。そして、ブッシュに始まる新自由主義の行方は現在の日本にあまりにもそっくりだ。
2013/05/04
アキ
2007年82歳で亡くなったカート・ヴォネカットの遺作。「a man without a country」が原題だが、まぎれもなくアメリカ流のジョークを好む男。小説家として人間への暖かくユーモアのある目線とこの地球を短期間で窮地に追い込んでいる人類の愚かさとウイットに富んだ皮肉。思いつくままさらりと書いているような文章と味のある手書きの言葉たち。う~ん、地球最後の日にウイスキー片手に読みたくなるような文章でした。
2020/01/22
sin
ヴォネガットは怒っている;化石燃料を使い続ける人類に;ブッシュのイラク戦争に;地球を浪費する企業家に…いや人類に!だからいままではユーモアで乗り切ってきたと…しかし彼はジョークというがその彼が世に送り出してきた数々の作品からは笑いより諦念を感じる。ドレスデンの大空襲を生き延びた彼が破壊されつくした街を見て笑うしかなかった…というのはまさに人間の愚かさを身を持って体感したからだろう。しかしその反面、ヴォネガットは人間を信じてきたのかもしれない。ユーモアという形で読者たち自らが気づく日を待っていたのだろう。
2015/11/11
藤月はな(灯れ松明の火)
愛すべき人嫌いで人間愛者おじいちゃんのユーモア溢れる批判精神溢れるエッセー。論理と感情で愚かに動く我利我利亡者や狭い価値観と情報の狭窄的取捨選択によって「自分こそは正義!」と妄信する人間自身を痛烈に批判しているのに嫌な気分にならない。それは彼自身も愚かな人間であることを自覚する冷静さと人間が愛おしいという優しさがあるからだろう。こういう人がもっといてくれたら世の中は楽しくて捨てたもんじゃないと思えるだろうに。
2016/04/21
中玉ケビン砂糖
「唯一わたしがやりたかったのは、人々に笑いという救いを与えることだ。ユーモアには人の心を楽にする力がある。アスピリンのようなものだ。百年後、人類がまだ笑っていたら、わたしはきっとうれしいと思う。」この本を手にしたのは、ヴォネガットが亡くなってから少し経った頃だったと思う。表紙を見てすぐに、「ああ、この人すごいな」と感じた。胸が詰まって泣きそうになった。幼少期、引っ込み思案な性格だったヴォネガットは、ユーモアの技法を学ぶことで、家族の会話の輪の中に入ることができた。
2014/11/03
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