「絶筆」で人間を読む 画家は最後に何を描いたか (NHK出版新書)
「絶筆」で人間を読む 画家は最後に何を描いたか (NHK出版新書) / 感想・レビュー
trazom
ボッティチェリからゴッホまで15人を取り上げて、その生涯を辿り、代表作と共に「絶筆」を紹介するという流石の一冊。面白い。エル・グレコ、ゴヤ、ダヴィッドなどの苛烈な性格にも理解を示し、ヴィジェ=ルブランやホガースの復権を促すなど、中野さんの画家への温かな視線が心地よい。絶筆を辿ると、晩年に大きく画力が衰えたボッティチェリ、ダヴィッド、フェルメールや、全盛時と全く異なる枯淡に達したティツィアーノ、ルーベンスなど、興味が尽きない。「白鳥の歌」の言い伝えは、絵画には当てはまらないのかもしれないという気がしてくる。
2024/06/18
佳音
最後の作品には、画家の「生き方そのもの」が表れる。そこに焦点をあてた本書は、大変興味深く面白かった。特に私は、ゴヤの生き方と「絶筆」が印象に残った。野心家のゴヤは鼻持ちならない慢心した首席宮廷画家だったが、病をえて聴覚を失うと反骨精神が内よりもたげ、「中心主題への深化」が進み、己の眼だけに写る現実を描写し始める。宮廷に媚びへつらいつつ宗教批判や王室批判を描くのだ。反骨精神と、顧客を満足させ異端裁判さえ回避する政治力を持ち合わせるという複雑な矛盾を抱えた芸術家の生き様は、反骨の絵師国芳とも重なる。
2016/03/07
rico
集大成、ぬけがら、夭折により閉ざされてしまった新境地への扉。最後の1枚=「絶筆」から読み解く画家たちの人生と作品。代表作との対比が、彼らの生涯と追いかけてきたものの到達点をより鮮やかに浮かび上がらせます。狂気をはらむゴッホの麦畑や、ゴヤの鬼気迫る自画像の凄まじさ。ルーベンスの穏やかな風景画と、ティッツィアーノ最晩年のドラマティックなピエタの対比。かつての輝きを失ってしまったボッティチェリにフェルメール。興味は尽きません。美術館ロスの中、ひととき画家たちの息吹を感じることができた一冊でした。
2020/03/22
yumiko
年末に出会えた素晴らしい一冊。この面白さは先ず企画の勝利!画家の最盛期の作品を目にする機会は多いけれど、それを絶筆と比較することで、その人と生涯、時代の流れがこれほどくっきりと浮かび上がるとは。30作品全てがカラーで、詳細な解説付きなのも嬉しい。印象派以降の絵画と違い、それ以前のものはある程度の知識がないと理解が追いつかないものも多い。良い導きと共に鑑賞することで、より深く楽しむことができるのだ。ただ「怖い絵」のように鑑賞の窓口となる一冊ではなく、慣れた方向けのようにも思う。絵画好きの方には是非お勧め!
2015/12/20
キムチ
今回も外れなく、絵画の裏面を語ってくれました。現代に見る画家とは大きく異なるその有り様…職人、外交官、工房経営者等。そこにも至れぬ困窮に病に喘いだ者。そして絵に課せられることも様々…プロパガンダだけに終わっていない。絵に秘められた生臭さの森羅万象の一部が15人を俎板に乗せる工程で明らかにされていく。面白くてサクサク読み。新書版ながら図版の質や量も適度にある。何れ劣らぬエピソードだがラスト、ゴッホで留めを刺した。幸福の黄色から不吉の黄色。「カラスのとぶ…」は初めて目にした。命が瞬時に散る宿命を見せた絵だ…
2015/10/25
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