中井久夫スペシャル 2022年12月 (NHKテキスト)
中井久夫スペシャル 2022年12月 (NHKテキスト) / 感想・レビュー
ネギっ子gen
【中井の仕事のすべてに通底しているのは、常に患者やマイノリティの側に立つという倫理観です】統合失調症の実像の解明、被災者の心のケアなど、人々の苦しみに寄り添い続けた“義と歓待と箴言知のひと”中井久夫は、精神科医としての観点で綴られたユニークなエッセイや医学書や翻訳など、実に多彩な著作を残している。その中から『最終講義』『分裂病と人類』『治療文化論』『「昭和」を送る』『戦争と平和 ある観察』の5つの著作を紐解いて、そこに込められた独創的な文化論や平和論から、人が社会生活を営む本当の意味をコンパクトに――。⇒
2023/07/02
肉尊
「こころの医師」とも言われる中井久夫さんの実像に迫る一冊。彼は過去に読んだ本の内容が背表紙を見ただけで思い出される【超限記憶】(ハイパームネジア)能力の持ち主。あるとき研修医が腕組みをしている姿を見て「高圧的だ」と一喝したとか。そんな優しさあふれる彼は、誰しも統合失調症になりうると考え、治そうとするのでなく患者の心に寄り添うケアを重視している。番組でも触れた「べてるの家」の活動は、自分で病名を定め、当事者研究を通じて病気と向き合い、定期的に「幻覚&妄想大会」を開催。笑いが絶えず、非常に興味深い活動である。
2022/12/01
ころこ
斎藤が別のところで書いていたが、精神科医をして批評家を副業にするモデルは中井久夫だとのこと。当然、斎藤が中井の影響を受けたのだが、『治療文化論』というタイトルがいかにも斎藤環っぽい。ケアや個人症候群など、現在注目されているアイデアの先行者としての側面を強調していて、中井が(気質としてでなく)文化的な兆候を見つける才能を持っていると読める書き方は巧みだ。以前、斎藤が紹介していた『「昭和」を送る』を読んだきりで限定的だったが、『戦争と平和ある観察』とのパースペクティブでみると改めて違った印象を受ける。
2023/09/26
兵士O
中井先生に私淑している女性の精神科医さんが運営している共同作業所を僕は縁があり知っています。そこでは利用者さんに合わせて、様々な芸術的・創造的な日々の活動が行われるのですが、中でも僕は月一のフリーペーパーを楽しみにしています。それは決して障害者だから無茶苦茶というわけではなく、独自の猫型ロボと主人公の織り成すウィットに富んだ4コマ漫画、知識人顔負けの難解な古典のレビュー、読者をその世界に引き込む華麗な表紙絵など、その知的水準は高度です。障害者の「心の産ぶ毛」を大切にし、それに寄り添う活動がここにあります。
2022/12/21
呼戯人
以前、最相葉月の「セラピスト」を読み、ずっと気になっていた中井久夫の紹介。これまで「治療文化論」しか読んだことがなかったが、この本を読んで、中井久夫の文章をまとめて読む気が起こってきた。統合失調症を日本ではじめて治療可能な病気であることを実証し、巧みな文章と箴言知によってまとめられた論文も読みやすいという。美しい日本語の文章。科学と詩の共鳴混成体として、多分加藤周一にも通じるような美しい散文と透徹した認識が一体となった知を連想する。また読むべき本が増えてしまったが、それは嬉しい悲鳴。
2022/12/07
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