死よりも悪い運命 (ハヤカワ文庫 SF ウ 4-19)
死よりも悪い運命 (ハヤカワ文庫 SF ウ 4-19) / 感想・レビュー
chanvesa
「オポッサムの妊娠期間は十二日。インド象の妊娠期間は二十二ヵ月です。わが友人と隣人のみなさん、アメリカの自由の妊娠期間は、なんと二百年あまりにおよぶことがやっと判明したのです!(126頁)」だからあきらめてはいけないと。そうかもしれないがなんと相対的な言い回しか。「ハンブルクは再三にわたって爆撃されるべきだったか?イエス。広島は爆撃されるべきだったか?あれがなければ死んでいただろう人びとにたずねてほしい。(158頁)」これが彼の思考の限界に思えてならない。戦争に対し普遍の「否」を突きつけられないアメリカ。
2023/09/03
マウリツィウス
ヴォネガットの科学探究領域は《運命》つまり必然を避けられない世界像をシェイクスピア/ギリシャ悲劇意味から脱却、その近代性が成遂げた反・不条理を打ち立てた意味で古典主義的だ。SF時代の先駆における機能と使命とはその確立価値観の提供でありギリシャ時代を忘却する現代へ《テクスト》概念の重要性を説いた。この系譜と源泉を理解した作家は意義難解かつ解読を拒んだ《ポストモダニズム幻想》を消滅させていくプロセス論を提唱、本作での試験遂行はコンテクストを喪失した現代文明への直接批判を兼ねる。古典/回帰/刷新を同時意味した。
2013/06/30
roughfractus02
一般の人に除け者にされ、孤独と絶望を母に自由を獲得するのが創造的な人であると著者はいう。E・ヴィーゼルは「鬱病でなければ純文学作家にはなれない」と言い、無意識を描くJ・ポロックは作品の中の自分は意識がないと言った。ではなぜ彼らが創造的なのか?彼らを除け者にする一般の人が中毒患者であると指摘する役割が必要だからだ。酒、ギャンブル、コカイン、買い物、大食等々の中毒の中で一番中毒になるのは戦争だ。10年ごと編まれる作者の3冊目のエッセイ集である本書は、創造と破壊に思いを巡らす80年代に書かれた(1991刊)。
2023/07/05
naoco
戦争に参加したことをきっかけに壊れていった精神が、ジョークの中にも繊細に見え隠れしていて、私の中では反戦エッセイとして最もと言っていいほどの印象深いものになりました。
2016/03/15
ころっぷ
老作家の徹底したペシミズムは、憂うべきアメリカの病状にメスを突き付けるのと同時に、祈りにも似た処方箋を描いて見せる。後にも先にも他に類の無い作家だったヴォネガットの、多彩な作品群の源泉を垣間見れる良書。あくまでも束の間のジョークとして語る死生観、宗教観、人生観が鋭く刺さってくる。改めて今の世に読み返したい作家の一人だ。
2018/06/08
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