ヴォネガット、大いに語る (ハヤカワ文庫 SF ウ 4-20)
ヴォネガット、大いに語る (ハヤカワ文庫 SF ウ 4-20) / 感想・レビュー
白義
ヴォネガットにとってSFは無用なレッテルだったのかもしれないが、その意図にあえて反して彼こそやはり最高のSF作家だったのだと言いたい。彼はテクノロジーに向き合ったし想像力に満ちた戯言でつまらなく重苦しい世界にユーモアをふりかけた。この本には彼が現実と対峙したルポや、創作について語った講演がおさめられている。サイコキラーに関する記事があるし、あるアフリカの国の苦境も、とにかくいろいろなものが語られる。そこから見えるのは、彼のでたらめが小説だけでなく現実でも常に貫かれてきたということだ
2012/10/06
roughfractus02
作者にとって悲惨な世界に生きるために必要なのは、何人かの相手である。相手が複数必要なのは、一人への愛は独占に向かうが複数への親切はそうならないからだ。一つのことに感情移入しがちな自分に距離を置くよう促すのは笑いである。初エッセイ集である本書には、作者のそんな創作意図が見え隠れするように感じる。大戦後も戦争協力する科学を疑う作者は、占星術や降霊術に国費を使うように促して悲惨さを嘆く方向から距離を取る。インタビューに真摯に応え、祝辞を送る講演で悲惨な話をしたとき、聞き手の間に笑いが起こったのかどうかは不明だ。
2023/07/03
明石
ヴォネガットが方々でおこなった公演や、雑誌に寄稿したエッセイ、インタビュー等々をごっそり集めて1冊にまとめた本。「文学の世界では、冷蔵庫の仕組みについて知る者はSF作家にされてしまう。そして批評家たちはしばしばSFというジャンルをゴミ箱と勘違いする」という趣旨の発言が冒頭のエッセイにあって、序盤からとんでもなく引き込まれた。ヴォネガットらしい天性のユーモアの込もった皮肉は切れ味抜群。彼にとって書くことが自己治癒なら、私にとってはこの本を読むことがまさにそれ。他の作家の文章に疲れた時とかにまた帰ってきたい。
2022/01/07
たか
「どうにもならない悲惨さに対応するわたしの唯一の手段は、冗談を言うことであった。」この人の書くことばにはしばしば絶望が滲んでいるが、それでいて声を出して笑ってしまう程のユーモアがあり、そして前向きになれるような不思議さがある。『ビアフラーー裏切られた民衆』はよく構成されていて小説といってよい完成度。善悪の価値観やメリトクラシー的なものへの懐疑もうなづきながら読んだ。共同体の話は近頃また盛んだが、ヴォネガットはその価値を認め懐かしがりつつも、もう二度と訪れることはないという見方のようだった。
2021/05/17
misui
惨憺たる歴史とそれに導いた技術や社会への不信ということを考えれば、型通りのSF作家に収まらないところも納得できるし(クラークへのdisとか)、とても20世紀的な作家だと思う。ただそれでも些かユートピア的な連帯の提唱などに関してはまだ60~70年代あたりの希望が見られ、現在に続く過去の風景という感じで読み進めた。
2021/04/26
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