タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫 SF ウ 4-22)
タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫 SF ウ 4-22) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
SF仕立てになっていて、またSFとして高く評価されてもいるのだが、それでも本書の本質はSFにはない。そして、ある意味で極めて現代的なのは、ひじょうにニヒルな神なき世界を描きながら、ヴォネガットはまたここでは実存をも否定していることだ。彼の庶幾する自由の背景にはビートニクな世界観が横たわっているように思わる。物語は、地球、火星、土星の衛星タイタンと惑星的なスケールで語られるが、それらの間には何もなく、また個々の登場人物のそれぞれも本質的な孤独の中に置かれていた。エンディングは救いに見えるがそれもまた虚妄だ。
2013/07/21
徒花
まぁまぁよかった。宇宙の特別な空間?に入り込んだことで波動現象的な存在となり、太陽系の広い範囲で過去・現在・未来に同時に存在するようになった大富豪・ラムファードに運命を翻弄される男の物語……なんだけど、実はラムファード自身もまた、ある一つの目的のために利用されていたに過ぎないっていう壮大な物語。人生に意味はあるのか、人間に自由な意志は存在しうるのかを読者に問いかけてくる。でもまあ、たとえ運命に翻弄されていたとしても、それもまんざら悪いことではない。
2022/01/05
藤月はな(灯れ松明の火)
学校の後輩でSF好きの読友さんからのお勧め本。愚かで矮小な人間たちが贈るグロテスクでコミカルな話。だがテーマは「自分が行おうとしていることは本当に無限にある選択の中から自分で選択した=自由意思によるものか?」という哲学的問いが根底にあるSF。「コンスタント/アンク、最低!」と思いきや、ラムフォードの化けの皮が剥がれたり、サロの狂乱故の自殺が起こるなど、グロテスク。でも最後にじ~んと来るなんて思いも寄らなかった・・・。確かにこれは凄い本だ。
2014/08/01
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
未来を見通し、時空を超える力を得た男。【神】となった彼は、コンスタントという男の運命を翻弄する。全米一の大富豪だった彼は富も記憶も奪われ火星、水星、そして土星の衛星タイタンと放浪の旅に放り出される。【神】は、転落と流転の運命を与えた代償として、彼にかつて自分の妻だった女性を差し出す……。壮大なスケールで描かれるブラックなスラップスティックコメディ。その底流にあるものを読み取ろうとすると、深遠な領域に迷い込む気がする。1959年発表。悲しみやグロテスクさをユーモアに包むヴォネガット・ワールドの初期代表作。
2015/11/22
佐々陽太朗(K.Tsubota)
サロの存在が人間と機械の境界線がどこにあるのかと想起させる。それは四十年前にフィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢をみるか?』を読んだ時に抱いたものと同様のものだ。ある種の感情を持ち、悩み、自殺を図るサロの存在は機械の域を超越した存在と認めざるを得ないのではないか。この難問に挑むためにもう一度『アンドロイドは電気羊の夢をみるか?』を読み直そうか。いや、それよりトラルファマドール星が舞台になっているという小説『スローターハウス5』を読む方がよいか。いやいや、同名の映画の出来も良いらしい。迷う・・
2016/12/19
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