ソラリス (ハヤカワ文庫SF)
ソラリス (ハヤカワ文庫SF) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
再再読。以前の2回は『ソラリスの陽のもとで』(ハヤカワ文庫、飯田 規和訳)で。これまでの版はロシア語からの重訳であったが、今回はポーランド語原典からの訳出。やや煩雑に思える節もないではないが、やはりこちらが正統派であろう。作品の解釈は、それこそソラリス学がそうであったように百花繚乱。私自身の読者としての解釈でさえ前回とは違っている。基本的にはファースト・コンタクトをテーマとするのだろうが、そこには不条理なまでの意思の不疎通が立ちはだかっている。今回痛切に感じたのは、全編を覆う圧倒的なまでの寂寥感であった。
2018/07/16
パトラッシュ
初版刊行から60年近い現在はファーストコンタクトSFではなく、人類同士の衝突を描いたドラマに思える。いくら試みてもまともな対話が成立しないソラリスは、自分たちの民族や宗教や感情こそ至高であり、周囲の言い分など無視して当然と信じて疑わぬ人類そのものなのだ。この世には科学的合理的思考では理解不能な他者がいるとレムに教わった。今、日本はいくら話しても理解し得ない隣国と永遠に付き合っていかなくてはならない。それはまさに「地獄とは他人のことだ」というサルトルの言葉の具現化であり、未来は本書により予言されているのだ。
藤月はな(灯れ松明の火)
映画のタルコフスキー版、ソダーバーグ版も共に未見。惑星ソラリスの海が投影してきた人々。彼らは死者でもあり、自分が求めていたものでもある。それでも彼らに出会った人々は狂乱に陥らずにはいられない。何故なら対象者がどんなに目を背けたく、忘れたいと思ってもいることもありのままに映し出す鏡でしかないから。そして鏡には理由はないという気味悪さ。醜悪なビーナスやハリーが出てくるシーンは映画『イット・フォローズ』を想像してしまって怖かった。そして何もかも優先順位と意味付けして安堵する人知に対し、ソラリスは何て穏やかだろう
2018/02/08
Kajitt22
赤と青、ふたつの太陽を持つ、美しくもミステリアスな惑星ソラリス。その意思を持った鈍色の海とのファーストコンタクトは、その人の無意識の底を具現化した訪問者だった。その意味は親切、友情、不意打ち、嘲笑、拷問、顕微鏡的研究、それらのすべてか、あるいはまったく別のことか。長大なソラリス学の解説が苦痛だが、ハリーの登場が、著者の意図に反して、この物語を色彩豊かで陰影濃いものにしている。宇宙飛翔願望のある人でなくても、日々の未知との遭遇に備え必読の書です。
2016/05/12
まふ
一面を海に覆われた惑星ソラリスの観測基地に主人公の心理学者ケルビムが派遣されるが、基地での3人の科学者の様子がおかしい。会話が成り立たず、次第にそのおかしさが自分の身にも起こって来る。自殺したはずの恋人だったハリーが現れる。物語を読むにつれてその摩訶不思議な世界が明らかになって来る…それはこのソラリスの海自身が意識を持った生命体であるから…。これこそSFに相応しい舞台設定(SFでしか書けない世界)ではないか。「闇の左手」で疑心暗鬼になってしまった私の「SFの存在意義不信」がこの作品で氷解したような気分。⇒
2024/07/21
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