闇の公子 (ハヤカワ文庫 FT リ 1-18)
闇の公子 (ハヤカワ文庫 FT リ 1-18) / 感想・レビュー
星落秋風五丈原
作品中寵愛する青年とアズュラーンのラブシーンが最も美しくてエロティックで困った。電車の中で読もうものなら顔から火が出そうだ。浅羽さんの訳もいいが、原作もおそらく美麗な形容詞を並べているのだろう。タニス・リーは「これでもか!」と残酷で美しい気まぐれな魔物を飾り立てる。彼の住む妖魔の世界、彼に魅了される人間、彼を魅了する人間も、時に残酷で、時に哀しく美しい。世の中は無垢な存在だけではきっと味気ない。強烈な毒と、浅ましさと、妬みと、それらと優しさと愛がこねくりまわされて、今の地球がある。
2014/11/26
歩月るな
今は鬼籍に入った闇の女王タニス・リー&稀代の碩学翻訳者浅羽コンビによるレガシー。風雅で硬質なエロ本(by荻原規子)と言うのも、毒で腫れて苦しいから吸い出せみたいなエロ本でしか見ないような表現(察して)が出てくるから然りなのだが、まあ見事な文体は醜悪な強姦描写すら耽美に魅せる。深い理解の元に訳されたそれは、著者訳者共に本当に情け容赦なさが見事に光る。その向きには初っ端のまぐはひで堕とされること請け合い。何にもましてダークファンタジーの面目躍如たる語り口、童心の欠片もない暗黒童話(メルヒェン)そのものである。
2019/06/08
白義
人の運命を思いのまま玩弄し、破滅に追いやる悪逆非道の妖魔王アズュラーンを中心にしたいくつもの物語が緩やかにリンクし、最後は絢爛豪華な一幕の神話へと結実する壮大なダークファンタジー。罪なき者すらただの気まぐれで絶望の底にたたき落とす美しき絶対悪の頂点のようなアズュラーンだが、その悪行が人への好奇に満ちた愛より生まれいずるゆえに、人類を滅亡の未来より守護する救世主ともなり得るという皮肉が美しい。ギリシャ神話や千夜一夜物語からモチーフをとったであろう寓意的な筋立て、耽美で流麗な名文とどれをとっても至高の作品
2015/06/24
ぐっちー
闇の公子が気紛れに蒔いた災厄の種は、人間の欲望や憎悪や悲哀を糧に、奇怪な華を咲かせて破滅の実を結ぶ。昔読んだのですが、話はすっかり忘れており、めくるめく暗黒の神話に幻惑されてうっとりしました。闇のシェラザート・タニス・リー女史のご冥福をお祈りします。
2015/06/04
雪守
地の底に棲まう闇の公子であり、妖魔の王アズュラーンの物語。アズュラーンの男女共に魅了する妖しい魅力や、人々は大いなる存在である時に破滅へと導かれ、時に抗う描写が凄く、オムニバス形式で語られる闇の視点に重点を置いたこの世界の奥行きの深さを堪能しました。訳者あとがきで触れられている千夜一夜物語を意識して書かれていることには言われて納得しました。そして終盤、人を弄ぶことを喜ぶからこそ人の真の滅びを嫌うという皮肉な構図とその決断が面白かったです。
2011/10/14
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