小指の先の天使 (ハヤカワ文庫 JA カ 3-34)
小指の先の天使 (ハヤカワ文庫 JA カ 3-34) / 感想・レビュー
アナーキー靴下
神林氏2冊目、猫の表紙に惹かれてこの本を選んだけれど、想像以上に素晴らしかった。というかタイトルからも表紙の絵からも何も想像つかない話。内容は未来世界SFの連作短篇6篇。根幹には生きるとは何か、の哲学が常にあり、優しくもハードボイルドな美学みたいなものも最高に格好良い。さほど性的な話でもないのに、男性は生への渇望の源にエロスがあるように見え、女性の涙と男性の涙の違いもそこにあるのかと思えてくる。女性の美しい涙は慈愛的なもので、男性の美しい涙は迸る生命そのもの。模倣できない美しさで、だから惹かれるのだと。
2021/02/18
カムイ
神林氏のSFは久しぶり、この世界観に触れることが若かりしカムイに戻ったように短編集を楽しんだ。未来世界では仮想現実の中人間は生きるだけの意味があるのかと?【なんと清浄な街】は考えさせられるが結末は何となくクスッと来ました。【猫の棲むところ】は猫を飼っていた時が思い出され、(そうそうと頷く、群れるのは嫌うがさびしがりやですから)【抱いて熱く】は彼らしい作品でした、触れられないのはやっぱり悪夢であるがあの夫婦はあれで幸せだったのだろう。他も一貫して哲学的な問いかけあり人間は何処から来て何処へ行くのかと?
2024/01/03
さっとる◎
身体が寂しいと鳴いて心が弱る。五線譜から音符が脱出を企てる。血が流れなければ本物じゃないとか何とか。でもここにも痛みはあるし、血だって流れれば涙すら流す。1/3は違う顔をして永遠を手に入れる。0.33…。幸せか。あちらでは何でもできるとして、こちらでは触れれば燃えてしまうとして。無意味の意味が無意味であることに意味を見出すヒトとかいうのがいたとかいるとかいないとか。今この瞬間にも0.33…の世界でエントロピーが増え続けている。天使はいらなくなって久しい。みんなどこからどこに行こうとして神になったんだろう。
2021/09/04
なっく
桜庭一樹さんの愛読書とあったので読んでみた。近未来の世紀末を背景とした、人間の意識と神の物語。なかでも肉体と意識が繋がったり、切り離されたりする仮想世界は独特で、今も色褪せない。恋人同士が互いに触れ合えないとしたら、二人はその世界を諦めるだろうか?少女桜庭一樹がドキドキしながら読んだであろうシーンをトレースする楽しみを味わった。
2019/12/05
kana
読んでいると頭がびりびり痺れるような感じがする。意識とは、存在とは、人間とは、世界とは。。そんな解明の困難な哲学的問いたちに頭をぐるんぐるんかき回されるんだけど、だからこそとびきり面白くって、SFとはこうでなくっちゃ!と強く頷きたくなる。しかも、収録される一番古い作品から新しい作品までの発表時期には約20年の開きがあると解説で知り、ブレのないクオリティの高さに驚愕です。特に「抱いて熱く」「なんと清浄な街」「意識は蒸発する」の静かにたぎる狂気っぷりが大変好み。そして表紙の猫の後ろにいる物体の正体に戦く。
2013/07/14
感想・レビューをもっと見る