膚の下 (下)
膚の下 (下) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
上下巻、計1200ページの大作。しかも、3部作の第1部『あなたの魂に安らぎあれ』から、足掛け20年に及ぶ1大巨編の完結だ。本作にSFとしての欠点や矛盾をあげつらえばいくらでもあるだろう。しかし、それらを補って余りあるスケール感と圧倒的なまでの感動を伝えるのがこの作品だ。エピローグが素晴らしい。福音書の最期を飾るにふさわしいものだ。理想が実現した後にやってくるのは、満足感ではなく哀しみだった。「選ばれし者の恍惚と不安と二つ我にあり」―慧慈はまさに召命されたのだ。それは誰にだったのだろうか。神林の最高傑作。
2013/08/15
そふぃあ
「雨は嫌いだ」から「雨は優しかった」へ、兵士として造られた人造人間・慧慈の成長を描いた物語。何故生まれてきたのか、何故膚の下には人間と同じ赤い血が流れているのに、人間とは異なる存在なのだろう、そんな問いに対し、慧慈は自分なりの道を切り開いていく。『あなたの魂に安らぎあれ』で、アンドロイドと呼ばれる存在は、人間と同じ血が流れているのに、なぜ人間と異なる存在として描かれているのか分からなかったけど、本作でその謎が解けた。感動とはまた違う意味で心を震わせる凄みがあった。神林作品の最高傑作の一つだと思う。
2017/07/10
腰ナス
アートルーパーとしての生き方を決めた慧慈がすごく頼もしい。慧林がインテジャーモデルたちとそれを支えるために取った決断や普彗の取ったアートルーパーらしく生きるための決断がそれぞれが考えた上に成り立っていると考えると、素晴らしいと思えた。人間だろうと動物だろうと区別することなく殺してはいけない、と考えるに至った慧慈にはすごく感動した。慧慈は創ることで自分を愛したのかな、と思った。カラスが出てきた時、理論なんかはおいて、確かに奇跡だと感じた。間明との久しぶりの対話は、すごく感動した。
2017/01/10
眠る山猫屋
慧慈(ケイジ)、創造主への孤高の道を歩む。 人であること、否、在るということを考え続けたケイジの選択とは。 誰かに覚えていてもらえる、たったそれだけを支えに茨の道を行くケイジと、ケイジの光に導かれ、偏見や差別を振り払う人間たち。機械人や仲間のアートルーパーたちに支えられ、経験値5歳のケイジは、地球を再生できるのか。 ラストのモノローグも感動的。皆が如何に生き、如何に死んでいったのか。余韻の残るラストだった。
2012/03/16
kagemama
終わってしまった。3部の中で一番好きな話だったなー。でも、結局全てがここで繋がって、全部読んだあとに1部も2部も意味が増すところが凄い。「ただ単に未来を想像してみました」的なSFはあまり好きじゃないけど、この作品は「生きること」をテーマに深く広く掘り下げて、ある種の思想本のようで、とても味わい深かった。読み終わりたくなかったなぁ。今からもう一度「あなたの魂」読もうかなぁ。
2014/10/05
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