虐殺器官 (ハヤカワ文庫 JA イ 7-1)
虐殺器官 (ハヤカワ文庫 JA イ 7-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
これまで日本のSFの最高峰は神林長平の『膚の下』と位置付けていた。この作品を読み終わった今、あれは20世紀SFの金字塔であり、これはまさに21世紀の地平を拓くものであると思い至った。近未来テクノロジーのディテイルの確かさと強固なリアリティ。「本質は細部に宿る」のだ。そして、自分が殺した母と、一方ではルツィアへの、過去と現在の絶望的なまでの愛の渇望が喚起する抒情。テーマの持つ今日性―それは現在の世界の構造を看破するものであるかも知れない―そして、時間軸の先にあるものを見据えるスケール感は圧倒的でさえある。
2015/10/18
めろんラブ
生と死、罪と罰、善と悪・・・壮大なファンファーレが鳴り響き、伊藤劇場の幕が上がる。矛盾をはらんだ行為に邁進する人間の実存を、予測不能のストーリー展開と凄まじいスピード感で描き切っている。多くの情報を必要とする内容だが、安易に説明に陥らず描写として成立させる技量と、饒舌ではあるが贅肉を削ぎ落とした表現力に、ただただ呆然とした。これがデビュー作とは・・・。大いなる才能がすでに喪われている現実と、この作品に漂う無常観がどうしてもリンクしてしまう私は、伊藤氏の読者として不適格なのかもしれない。合掌。
2012/10/06
吉野ヶ里
面白かったです。やっぱ、小説家って勉強してんだね。オチはあんまり好きじゃないけど。人間はそんなに大きな責任を負えるの? そこまでいくと人間ではないんじゃね、責任の概念は自由意思を伴うのはわかるけれど、それは社会の中でしか有用に機能しない気がする。人間の強度はそんなに強くないんじゃないかな。選択す「べき」なのはわかる。自由意思を信じたいのもわかる。でも、選択なんて「できない」って気もするんだよ。遺伝子や環境に罪を負わせられるのか。誰かを批判することは出きるか。
2016/03/02
佐々陽太朗(K.Tsubota)
伊藤氏は9・11のあとの近未来社会でテロの驚異を根絶するために徹底的な管理社会を出現させ、絶大な力もつ国家を描くことで「正当化された殺人があるかどうか」という命題(この命題はドストエフスキーが『罪と罰』で問うた命題でもあるが)を読者に突きつける。そして「生まれたばかりの赤ん坊の心は真っ白な石版であって、その後の心や行動はすべて環境によって書き込まれる。従って人はみな平等だ」などという浅薄な”そうあるべきだ”理論に疑問符を投げかけているところがすごい。
2011/02/11
Yunemo
消化しきれないまま読了というのが本音です。SFながら現実部分と折り重なって、どうにもついていけないところがありまして。グッと引き込まれる部分と、あからさまに突き放されたと感じる部分が錯綜して、戸惑います。自由っていったい何なの。人間の本性って何なの。突然のごとく提起される問題。答えられません。タダ一つだけ、主人公の実感が、現在の人間らしさに間違いなく伝わってきています。世界観という面では、ある意味でのリアルさがそのまま身に沁み込みます。
2014/03/01
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