ハーモニー (ハヤカワ文庫 JA イ 7-2)
ハーモニー (ハヤカワ文庫 JA イ 7-2) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
人間の持つ意志は、進化の偶然から生まれた。それゆえ人間は宿命的に紛争や、薬物などによって自己破壊の道をつき進んでゆく。これに終止符を打とうとしたのがハーモニー計画という共同幻想だった。その幻想に激しく反発し、同時に回帰していった孤独なテロリスト、御冷ミァハ。これに対峙したのは、これも孤高の監察官、霧慧トァンだった。エンディングのクロウカシスの光景は、限りない透明感を湛え、崇高なまでに美しい。それはミァハへの、そして「わたし」への、そして同時に一瞬の光芒を残して消えていった伊藤計劃自身への挽歌だった。
2015/12/08
吉野ヶ里
生物として(生存を第一に)考えると、意識は取り除かれうる。完全な調和、個の排斥に対して、不快なのは意識という機能に依存しているからだ。人間は自分で考えるべきだ、責任を持つべきだ、というのは古い考えだと脳科学は言うけれど、古い人間の私はそーいうのが好きだ。でも、自分でもやっぱり人間の強度はそんなに強くない気がしている。どんな人間だって、雰囲気の影響は受けるし、大衆に意識を変化させられる。認知的不協和とか。意識はたぶん個体差と環境の相互作用が脳の選択を決定させるところにいるんだと思った。
2016/03/03
佐々陽太朗(K.Tsubota)
『虐殺器官』と同様、近未来の徹底した管理社会を小説の舞台としている。そしてお約束どおりその近未来管理社会は病んでいる。誰も死なない(死ねない)究極の健康社会という病んだ社会。窒息しそうなほど優しい空気に溢れた社会。本書はその病み方ゆえ、「フィリップ・K・ディック賞・特別賞」受賞という日本人SF作家初の快挙を成し遂げたのは当然のことといえる。SFには「病んでいる」というテイストが必要だ。そういう私自身も病んでいる。かつて「病んでいいない人間にはSFを読む資格がない」と言ったのは誰だったか。
2011/08/07
ntahima
白より黒、天国より地獄、そして『カラマーゾフの兄弟』より『罪と罰』が強烈な印象を与えるのは否めない。この先、新作が望めない以上、著者は『虐殺器官』の伊藤計劃として人々に記憶されていくであろう。その甘ったるい題名と女子高生3人が登場するプロローグに前作を汚されたような気がして一読暫し積んでいた。そろそろ読まねばと手に取る。前半は非常に面白いSF。後半に入り《意識》の問題に触れた辺りから物語は深みを増す。『カラマーゾフの兄弟』の幻の続編、アリョーシャの編歴と言えばやはり過褒か?久しぶりに煙草を吹かしたくなる。
2012/02/04
文庫フリーク@灯れ松明の火
『虐殺器官』より読みやすく感じた。少女3人、特にミァハの語りが魅力的だった。意識を持たぬミァハが意識を獲得し、意識を突破して、本物のハーモニーをもたらす。さよなら、わたし。さよなら、たましい。「いま人類は、とても幸福だ。とても。とても。」と結ばれる結末。読了後、これを幸福だと思う方はいるだろうか。積み上げられる圧倒的なロジック。のめり込むほどのSFファンではないが、この作品の凄さは強く感じる。早すぎる著者の逝去を悼む。
2011/08/03
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