ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)
ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
上巻の前半はクメール・ルージュ以前ーすなわち、シハヌークとロン・ノルの時代―後半はクメール・ルージュ以降。いずれにしてもゲームのルールを決めるのは彼らの側。どちらも賭け金は自分と家族や仲間の命。クメール・ルージュ以降はそれが一層厳しくなり、もはや生き延びるのが奇跡と思われるほど。複数の人物が登場するが、ここではまだ彼らのいずれもが翻弄される側。物語は概ね史実に沿って展開するが、その中で「個」でありえるのは彼らだけである。なお、文体は限りなくアマチュアのそれである。そのことがむしろ逆に成功をもたらしたか。
2021/01/13
W-G
『地図と拳』が良かったので読んでみた。SFは普段あまり読まないので詳しくはないが、それでもこの作品がジャンルの中でも特異な部類に属するのはなんとなくわかる。カンボジアの凄惨な歴史を描いた硬派な小説を読んでいるつもりになっていると、不意にスーパーナチュラルな逸話が挟まってくるのに、違和感がなく自然に受け入れられてしまう不思議な物語だ。『地図と拳』に登場する人物と、似たような人格造形で似たような末路を辿る者がいて既視感ある部分もある。しかし、それは欠点とはいえず、著者の"色"といえそうだ。
2023/04/26
chiru
上巻は、ポル・ポト政権下に堕ちたカンボジアの激動を描くクメール・ルージュ編。 主役は、秘密警察の手から生き延びた頭脳明晰な少女ソリヤと、彼女に好意を寄せる神童ムイタック。 ふたりの序章は、大量殺戮が産んだ『命をかけたゲーム』ではじまった。 細胞のように増殖する狂気と暴力と死。不思議な力と名前をもつ子供たち。 殺戮の嵐を、政治的実権の奪取を、ディストピアの物語を、『ゲーム』に置き換えるジェノサイドのボーイ・ミーツ・ガール。理想の未来をつくる鍵は『ゲーム』が握る。下巻へ❕ ★5
2020/05/02
『よ♪』
面白い!大虐殺の悪名高いポル・ポト政権前夜のカンボジア。"革命"という言葉に良いイメージを抱くが前政権からポル・ポトに変わったのも革命だ。勝利したものは"疑心暗鬼"から人としてのルールを逸脱していく。革命の日に出会ったふたり。世の中を正しく導こうとするポル・ポトの隠し子ソリヤ。僻地の貧しい農村に突如生まれた"神童"ムイタック。彼はルールを外側から破壊してゲームを支配する"革命"が嫌いだというが……。ソリヤの政治手腕、ムイタックの知力と観察力にワクワクする。ここからどうやってSFに繋がる?下巻も益々楽しみ。
2020/02/24
かみぶくろ
3.8/5.0 クメール・ルージュ成立前後のカンボジアを描いた、エンタメ色強めの歴史?SF?小説。凄惨な歴史を描いているのに、登場人物たちの浮世離れした奇抜さもあり、なんとなく一つ一つの死が軽く、良くも悪くも深刻になりすぎない。そもそも大虐殺の史実をゲームに見立てているあたり、なかなか思い切っている。物語としての牽引力が優秀なので、下巻の展開がとても気になる。
2021/06/13
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