仕立て屋の恋 (ハヤカワ文庫 NV シ 14-1)
仕立て屋の恋 (ハヤカワ文庫 NV シ 14-1) / 感想・レビュー
アナーキー靴下
ルコント監督の映画は気になりつつも観ておらず、シムノン原作とはつい最近知った。原作はやはり悲劇。シムノンに主人公として選ばれた時点で破滅を運命付けられているかのようだ。映画もこの内容なのか気になりあらすじを調べた。展開はほぼ同じようだが、映画は愛を表現しきっていて、悲劇という印象にならないのではなかろうか。周囲の人間が強烈な思い込みを持って主人公を見るのに対し、主人公が淡白なのは、読者さえも主人公の側に立たせぬための計算か。アリスだけが、彼そのものを見ていた。覗かれた者が覗き返すように。切なくも、感嘆。
2023/06/11
tsu55
中庭を挟んで部屋が向かいあう安アパートメント。 向かいの部屋に住む若い女の生態を窓から覗き見ることを密かな楽しみとしているイール氏は、罠にかけられ、殺人事件の容疑者として刑事に付きまとわれる破目に。 何やら詐欺まがいの商売をしているらしい。前科もあるようだ。なんだか怪しいイール氏。じわじわと追い詰められ、終盤に入って一気に破滅へと向かう……。 孤独な中年男の純情ぶりが滑稽でもあり、せつなくもある
2019/12/05
きりぱい
タイトルがこれなのに、よくよく読むと仕立て屋じゃない?と思いつつ、もひとつ言うと、恋も完全にストーカーの域。なのに孤独で純情なところが妙に同情を誘うイール氏。灯りを消して向かいの窓のアリスを覗くイール氏がかけられた殺人の嫌疑。ああ、なぜに人は不条理な攻撃を事もなげに人に向けられるものなのか。ひととき見た甘い希望がまさかこんな形で幕を閉じるとは。シムノンの淡々とそっけない文体にして怖ろしくいたたまれない。
2012/11/08
kthyk
1930年代という時代の持つ深い悲しみを、パリの通りと家々とカフェの日常を詳細に語り、その雰囲気、空間を通し、優しく包み込んでいく。 イール氏と小さな中庭を挟んで会話する、いつも孤独で木靴を履き牛乳屋で働くアリスの姿は、19世紀という大都市の発展期の女性たちの姿そのまま。 故郷を追われパリにたどり着いた若い女性たち、しかし、当時はまだ彼女たちが自活できる仕事は都市にはない。そんな彼女たちの居場所は結局、都市の吹き溜まり、シムノンがメグレ警部を通して書き続けたパリの下町か場末の歓楽街だけだった。
2020/10/14
kiji
のぞきが趣味の冴えない中年男と若い小悪魔美女の組み合わせはありきたりではありますが、書かれたのが戦前と分かり欧米ミステリーの先進性を再認識しました
2010/09/07
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