サバイバー〔新版〕 (ハヤカワ文庫NV)
サバイバー〔新版〕 (ハヤカワ文庫NV) / 感想・レビュー
ケンイチミズバ
日本にも双子が忌み嫌われる時代があった。このカルト教団では最初にこの世に出てきた子だけが認められる。教団から出て、教団の言う「過酷」な外の世界で生きる若者が自死に至るまでの、死ぬ理由の説明があまりにダラダラ長たらしく文体も嫌い。ただ、自殺方法は斬新で冒頭からの430ページ(ページが逆並び)くらいまでは面白かった。そこから先はウンザリ。誤った電話番号のせいで彼の元に消費し消費される人生に疲れた人たちからの相談が相次ぐが、そもそも厭世的な彼の身にのしかかる出来事としてはあまりにブラック。おススメ度は低いです。
2023/05/10
Vakira
本という書物の可能性に挑戦。443ページから物語は始まる。初っ端から驚かされる。自殺の時限爆弾。約7時間後に語り手は死ぬ事になる。ハイジャックした飛行機の燃料がなくなるからだ。乗客全員離陸時に降し、パイロットは飛行中、パラシュートを持ってドアからダイブ。飛行機の中には自分一人しかいないのだ。主人公はボイスレコーダーに向かって自殺への告白を始めると言った話。それでは、ページを捲る毎に近づく、死のカウントダウンと、行きましょうや。読み始めるやいなや、テリー・ギリアムの名作映画「フィッシャー・キング」が蘇る。
2023/07/09
泰然
カルト教団という異常閉塞社会の最後の生存者が見た外の資本主義世界は同じく常規を逸し、自分の意志と無関係に進む。ファイトクラブと同じく消費社会と存在証明をなくした人間を哄笑し、卑猥な文言や自己破壊的行動で、読書の怠惰な精神力を挑発する。終焉へのハイジャック、引用される聖書の節、過去から予測投資する商業主義の不穏と主人公を支配するディレクターと謎の女の行動は本作の不気味さや預言書感を近未来ディストピアSFの如く感じさせる。厭世の成れの果てになるか、世界のシステムに抵らって孤高と錯乱に生きるかを突き付ける怪作。
2022/03/14
cupcakes_kumi
まず冒頭の注意書きの仕掛けにワクワク。ピンホールから覗く僅かばかりの景色から徐々に広がるような、情報の小出し加減が絶妙だった。提示する順序をたがえれば、こんなにも冒頭から謎が生まれる典型のような作品。カルト教団で育った主人公が、コミュニティを離れても精神的に囚われたまま外界になじめず、依存し、利用され、消費される。極端な閉鎖社会で刷り込まれた常識を覆すのは、並大抵のことではない。政情不安な国に生まれるのも運命だが、カルト社会に生まれるのもまた恐怖の運命だと思う。
2022/02/26
Kepeta
初パラニューク。訳が良くテンダーの諧謔的な一人称がリズム感があり、思いの外読みやすかった。 アメリカ現代文学って本当に何を書いてもキリスト教の話になりますが、本書は宗教のパロディというよりも、旧約聖書を現代に読み換えた「イエスの父ヨセフの話」だと思えました。ファーティリティは全知全能の神でありイエスの母マリアであり。宗教であれビジネスであれ、この世は所詮洗脳とマーケティングと盲信で支えられる。パラニュークのこの世に対する視線は徹底してドライだが、諦観の底にある穏やかな優しさも感じられる。これは要再読。
2024/06/17
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