さよなら、愛しい人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
さよなら、愛しい人 (ハヤカワ・ミステリ文庫) / 感想・レビュー
Kircheis
★★★☆☆ 展開はまさにハードボイルドの王道といった感じ。タフガイ、美女、悪徳警官たちが物語を彩り、中心にはフィリップ・マーロウ。 ヴェルマの行方など、大抵の謎は種明かしされるまでもなく容易に見抜けると思うが、このシリーズの売りであるマーロウの男気や、登場人物たちそれぞれの人生観などは十二分に味わえた。 ちょい役のレッドは特に良かった。 またグレイルの深い愛とそれにケジメとして応えたヴェルマの決断も、あくまでマーロウの想像上の説だが、本当だったら素敵と思う。荒地に咲く一輪の花のようだがら。
2022/09/06
absinthe
Pマーロウものの春樹訳。なんだか渋い中年探偵。関係なかった別の話と思われたものが一本により合わさっていく。スリリングな展開や謎はオマケに過ぎず、渋い中年探偵の生きざま、人生観、セリフ、雰囲気を味わうべき作品だろう。煙草が悪徳で無かった古き良き時代。シーリングファンの影が背後の壁にちらついている中、酒をあおりながらぽつりぽつりと語るような、モノクロ的雰囲気が良し。
2022/05/27
ヴェネツィア
あらゆる意味でアメリカらしさに溢れた小説だ。マーロウはタフ・ガイなのだが、作中では一度も銃の引き金を引いてはいないし、拳を振るうことさえ稀である。というよりも、むしろ自分自身が痛めつけられっぱなしだ。それも、徹底的にこっぴどく。それでも、諦めることなく、ともかく前に前に進んで行こうとする。そんな姿こそが本当の意味でのタフなのだろう。この小説は、どこまでも通俗に徹することで、逆にその中から通俗を超えて浮かび上がってくるものを描いたのだ。マーロウが時を経てもなお強烈なリアリティを持つ由縁はそこにあるのだろう。
2013/03/06
ケイ
「マーロウは、いい女をたらす男」のイメージでずっと食わず嫌いだったのだが、今年三冊読んで印象が全くかわった。いい男を愛する(同性愛的な意味でなく)男と思える。彼にとっては女性は愛すべきものだが、二の次。だから、女は彼を捉えようとするけれど、彼の嗅覚はいい男を捉える。この作品を、My Lovely は一体誰なのかとずっと考えながら読んでいたのだが、この言葉を心で唱えたのは、どうやらマーロウではなかったようだ。私にとってのLovelyは二人の大男だった。
2015/12/09
ケイ
再読。Lovelyが誰だったのか気になって。lovelyってとても優しい愛情にあふれた言葉だから。でも、今回は…、やれやれ。マーロウがあんまりシェイクスピアは…、と繰り返すんだもの。ヘミングウェイやシェイクスピアを分かってないと細部まで味わえないのかしら。現れたマーロウがハムレットの父みたいに見えたってことは、要するに亡霊のようだったということよね。そしてまた、『テンペスト』でタリバンがプロスペローとやっとおさらばできるぞ!と歓喜して叫ぶのがこの言葉“Farewell, Master”。さて、いかに。
2022/11/19
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