黒衣の花嫁 (ハヤカワ・ミステリ文庫 10-4)
黒衣の花嫁 (ハヤカワ・ミステリ文庫 10-4) / 感想・レビュー
Tetchy
正直事の真相を知ると、ジュリーを取り巻く人間関係が狭すぎ、そして状況は偶然すぎるように思える。しかし作者の抒情的かつ幻想的な語り口がそんな偶然性、現実性を霧散させ、復讐を遂げようとするか弱き美女の死の魔法が成功する様を酔うが如く堪能するような作りになっている。愛ゆえの女性の復讐譚の本書が女性がまだ男から軽んじられている時代に書かれたことを我々は知らなければならない。そんな時代に女性の強さを強調した本書は母親と一緒に暮らしていた作者だからこそ書けたのだろう。それでもこの徒労感漂わせる結末は何とも遣る瀬無い。
2020/06/24
アナーキー靴下
『幻の女』は、迫るタイムリミットにハラハラドキドキでページを捲る手が止まらないとか、意表をつくラストとか、存分に楽しめる傑作ミステリーだと他人に薦めやすいが、そういう意味では本作は薦めにくい。中盤は倒叙ミステリーの味わいも混ざるが、読者だけが知り得ることと物語内の登場人物が知ることの差が今ひとつ明確でなく、煙に巻かれるような心持ちで謎の女を追いかけるしかない。しかし最終盤、謎の女が逆に煙に巻かれる様に押し寄せる感慨は、これまでの話があればこそ。全て靄に包まれ、手首を繋ぐものの感触だけが残る。心に残る名作。
2023/07/17
NAO
冒頭、悲しげに家を出ていく美女、その後不可解な死亡事件が4件続く。そして、いつも、謎の美女のかげがあった。それが冒頭に登場した美女らしいのだが、彼女と4人のつながりはほとんど分からず、だがなぜか彼女の痛ましいまでの悲しみだけが、ひしひしと伝わってくる。この作品、アイリッシュが本名で発表したデビュー作。雰囲気のある文章と謎めいた女性にアイリッシュらしさを感じる。そして、ラストで明かされる真実。この彼女の報われなさも、なんともいえない。
2022/09/02
k5
一見、関わりのない男たちが次々に殺されて行く。事件の関連性は、謎めいた女の姿が見え隠れするだけだが、その女の姿は毎回変わっていて、、、既視感のある設定だと思いましたが、山本周五郎の『五辯の椿』はこの作品の本歌取りなんですね。最高のサスペンスなので、最後もうちょっと気持ちよく終わってもらいたかった気もしますが、ウィールリッチが描きたかった人間ってこうなのかと思って納得することにします。
2024/10/17
mii22.
ジュリーと呼ばれている女が、自分の痕跡をすべて消し姿を消した。そして謎の女が出没した後に男たちが殺されてゆく。犯人はもちろん姿を消した女だが動機が最後まで明かされないため、読み手は女の正体が気になり結末への期待がどんどん膨らんでいく。動機はある意味予想したように平凡なものだった。しかしそれだけでは終わらない捻りのきいた巧みなストーリーと構成に唸らされる。よい意味でレトロで色褪せない名作だと思う。
2016/06/30
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