死の接吻 (ハヤカワ・ミステリ文庫 20-1)
死の接吻 (ハヤカワ・ミステリ文庫 20-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
1953年の作品なのだが、それを全く感じさせない。背景こそ確かに古いが、それとても'50年代を仮構した現代の小説として通用するほどである。訳文もまたしかりである。本作はアイラ・レヴィンのデビュー作であり、アメリカ探偵作家クラブ最優秀処女長編賞を受賞しているが、今読んでもおそらく誰しも異論のないところではないだろうか。結末部だけが唯一欠点と言えばそうだろう。この段階では読者にも犯人、動機、方法のすべてがわかっていて、そのことの証明だけが残っていた。残念ながら仕掛けが大きいばかりで、心理戦にはならなかった。
2022/11/07
ケイ
残酷で悪趣味で胸が悪くなるような描写がたくさんあるのに、すごく面白い。この男の冷酷ぶりよりも、犠牲になる人達が可哀想で、本当にこの男が嫌いになった。姉の時は、どちらか分からずかなりドキドキしたけれど、作者の方が1枚上手で、やられてしまったな。殺すことが残酷なのは勿論だが、被害者が裏切られたという事実にうちのめされる事が何より酷だ。これは、戦後に書かれたという事も関係しているのだろうか。最後まで展開が読めないところが、ミステリ好きにおすすめ。
2018/11/11
遥かなる想い
「恋人に妊娠を打ち明けられた野心ある青年が殺人を犯していく」という 今ではありふれたテーマながら、文体にはリズムがあり、とても23歳の処女作とは思えない筆力がある。いかにもサスペンス劇場っぽくなりがちな展開だが…1950年代ということも考えあわせると、中だるみなく読者を引き込んでいく「ストーリーテラーとしての才能」を感じる。
2010/05/15
harass
『ベストセラー小説の書き方』で知り十数年振りの再読。1953年のサスペンス小説。大学生の主人公は狙っていた富豪の娘と恋人になるが妊娠したことを聞かされ苦悩する。厳格な娘の父がそれを許すはずがないのだ。それは彼の長年の野心が潰えたことになる…… 三章に分かれてそれぞれ視点が代わるがその意図に唸ってしまう。最近の小説で似た手法が使われてこれを思い出した。あらためて読み直すが、登場人物の造形や見せ方の完成度が高い。小説の技巧に優れ完全な映像化が難しい。いまさらながらの古典であるが、強くおすすめしもうす。
2018/02/25
hit4papa
オールタイムベストに名前を連ねる言わずもがなの名作スリラーで著者のデビュー作です。在学中でありながら、妊娠したカノジョに結婚を迫られる青年。青年は、富豪の娘であることを知りつつも、野望が絶たれるリスクを察知し、甘言を弄した上で、カノジョを自殺に見せかけ殺害してしまう…。本作品の悪党の悪辣さは、半世紀以上を経過しても色褪せません。カノジョの少々、面倒な性格を上手く操り、自殺を装う計画性に戦慄を覚えます。二部、三部は、彼女の姉たちの捜査行。一部は倒叙小説、二部は謎解きミステリ、三部はスリラーという趣向ですね。
2023/09/13
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