24人のビリー・ミリガン 下 (ダニエル・キイス文庫 5)
24人のビリー・ミリガン 下 (ダニエル・キイス文庫 5) / 感想・レビュー
ヴェルナーの日記
何時の時代・何処の場所でも、マイノリティ(少数派)の声はマジョリティ(多数派)の大声の前に掻き消されてしまう。ビリーは解離性同一性障害の治療目的のためアセンズ精神衛生センターに収容される。そして分裂した人格を統合する治療が始まる。しかし、その間にも裁判は進行し、最終的に州立ライマー病院へと追いやられてしまう。ここではまともな治療を受けられるはずもなく、彼の病状は悪化する―― 現在において民主主義を表象するアメリカにおいてさえ、一部の弱者たちは、世の中に声を発することも出来ぬままに圧殺されていくのである。
2016/05/05
hiro
『プリズム』、『プラチナデータ』を読み、この解離性同一性障害を扱ったノンフィクションを読み始めた。この本に書かれているビリーが起した犯罪は、もちろん実際にあったものなので、犯罪の部分を読むのが非常に苦痛で、読むのに時間がかかった。特に実際の被害者がいる強姦のところは、この本でここまで書く必要があるのか疑問だった。この本を読み、絶えられない苦痛から逃れるため、自分のなかに23人もの別の人格をつくり、自分の心を守ろうとする人間の防衛能力には、驚かされた。これ以上読むのが大変つらいので、この本の続編は読まない。
2012/11/29
jam
解離性同一性障害(多重人格)が周知されたのは、1982年、本作が邦訳出版され、後に連続幼女誘拐殺人事件の被告を、ひとりの鑑定人が解離性同一性障害と鑑定したことによる。しかし、未だ、社会と臨床における知識乖離は大きい。本作では23人の別人格の統合過程がドキュメントされるが、実際の臨床症状は混迷し鑑別が難しい。また、ゲシュタルト崩壊同様、脳は危機回避のため、時に正常な精神活動からの逸脱に見える機序をとる。それは正常な営みであり、人の精神活動は意のままではない。容赦なく他者を責める前に知って欲しいと願う。再読。
2016/05/24
のっち♬
ビリーの分裂は継父から性的虐待を受けた幼少時に遡る。逮捕、服役、再犯。ショックと混乱は負のスパイラルを齎した。人格たちが現実逃避の産物であることは何かと死にたがる性格にも現れている。彼らには他の人格を道連れにしてしまう思慮はまるでない。傲慢も退行も連鎖性が高い。混沌と秩序、感情と苦痛の狭間におけるビリーの精神の彷徨をキイスは温かな筆致で辿ってゆく。奪われる時間の中で精神を停滞させまいと対策に腐心する様は切に迫る。「われわれはみな、心のなかでは別の人間なのではありませんか」—現代は精神的経営難の時代なのだ。
2020/02/04
ゆかーん
「人は誰もがもう一人の人格を併せ持っている」とあとがきにあるように、私も日常生活や職場など、場面ごとに性格を使い分けているように思います。主人公のビリーも、沢山の人格を形成して己を社会から保護していました。連続強姦強盗、母親の裏切り、精神病棟での虐待によって傷つけられたビリーは、気性の荒いレイゲンという人格を中心に自己を守り続けました。苦しみを他者に代わってもらうことで、自己抑制していたのでしょう…。幾年かが過ぎて精神が安定したビリーは、「教師」という人格を形成し、平穏な生活を送っていたのですが…。
2015/09/08
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