日の名残り (ハヤカワepi文庫 イ 1-1)
日の名残り (ハヤカワepi文庫 イ 1-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
独白体の語りが、全編にわたって実にうまく機能している。 南イングランドの美しい田園風景を背景に、最後はドーセット州のウエイマスで幕を閉じるが、実にしみじみとせつない物語。 スティーブンスの人生を、自分が生きたかのような読後感。 本当にいい小説、これこそが小説といえるような小説だ。
2012/01/23
青乃108号
カズオイシグロ3冊目。多彩なジャンルの書ける作家だな。執事の語りで綴られる彼の半生の物語は彼の職務上から来る口調の堅苦しさから最後まで逸脱する事はなく、終始静かに語られるのみだが、その中に読み取れる彼の「品格」への追及の執念。幾度も迎えた岐路にあっても己の信じた道を生き続けた彼は段々と衰えつつある我が身で、20年前の惑いに決別し、日の名残りとも言える残りの人生を自分の信じた道でさらにより良く生きて行こうと前を向くのである。後悔はすまい。これまでの道はこれで良かったのだと信じて。深い余韻を残す物語だった。
2023/12/14
zero1
イシグロは「追憶の作家」だ。「わたしを離さないで」と同じく、本書は作者の特徴がよく出ている。人生の後半に差し掛かった執事が旅に出る。今までのことを回想するが、記憶にいくつもの誤りが。 女中頭をしていたミス・ケントンのことなど、かなり事実とは違っている。思えば、人の記憶というのはかなりいい加減。ミステリーでは、「信頼できない語り手」がいる。それを採用したと思えばいいか。整った文章に追憶の表現も見事。もしノーベル賞に選ばれなかったとしても。 この作家の価値は少しも落ちない。
2018/10/18
遥かなる想い
1989年刊行のカズオ・イシグロの小説。同年のブッカー賞を受賞した英国で執事を長らく務めたスティーブンスの一人称の物語。スティーブンスが心から敬愛する主人・ダーリントン卿は おそらく第二次世界大戦前における対独融和主義者で、館では秘密裏の会合が何回か開催されるが、小説としては女中頭のミス・ケントンとの淡いロマンスの方がよい。失われた良き英国の物語か。1993年には映画化もされたようである。
2011/07/03
エドワード
スティーブンスは何故あそこまでよそよそしいのだろう。これがイギリスの執事の人性なのだろうか。彼とミス・ケントンとは、本当は心が通いあっていたに違いない。彼はミス・ケントンに会いに行く旅の間に、ダーリントン邸での数々の出来事を想い出す。古き良き時代。そしてミス・ケントンとの再会。長い小説の、終わりの数ページで。そして雨の中での別れ。「日の名残り」というタイトルは<夕方が一番美しい>という意味だそうだが、余韻が非常に美しい作品だった。
2011/08/15
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