シンプルな情熱 (ハヤカワepi文庫)
シンプルな情熱 (ハヤカワepi文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
アニー・エルノーは初読。本書は1992年の刊行なので、フランスの最先端に位置する現代文学といっていいだろう。小説は一貫して「私」によって語られる。そして、その内実はひたむきな情事への"passion"である。それが"passion"であるが故に、未来や恋の行く末、ましてや成就といったものはなく、存在するのは現在時と過去だけである。しかも、その現在時でさえも、テキストとして「書かれた」のであるから、彼女が「書いていた」時点での現在時に過ぎない。その不毛は「書く」ことにおいてのみ実在するかのようである。
2021/12/30
ehirano1
本書がノーベル文学賞作品であることは読後に知りました。不倫の自叙伝でした。印象に残ったのは、「・・・贅沢と言えるのは知識人の生活を営むことだと信じた。今の私には、贅沢とはまた、ひとりの男、またひとりの女への激しい恋(パッション)を生きることができる、ということでもあるように思える」で、道徳面は一旦置いておいて、贅沢の対象が非物質というのは確かに贅沢だと思いました。
2024/01/24
まふ
女性のストレートな性愛物語。わずか100ページ余の短編だが東欧の若い妻帯者であるAへの作者の一途な思いは恋情というより肉欲の渇えというべきだろう。この作者らしく虚飾のない文章で単刀直入で語られて、ある意味覚悟を決めた開き直り的なすがすがしさを感じる。発表当時賛否両論があったそうだが、反対派は男性に多かったというのも興味深い。ここまで書かれてはかなわん、ということだったのだろうか。
2023/05/23
新地学@児童書病発動中
作者の体験に基づいた恋愛小説。自分の性的な欲求までも包み隠さず淡々と描いていく率直さに、心を打たれた。研ぎ澄まされた文章が見事で、恋の情熱を描きながら言葉自体は美し澄んだトーンがある。この小説を読むと、どうしてもグレアム・グリーンの『情事の終わり』を思い浮かべてしまう。似た内容で、あちらは男性の視点から描かれている。グリーンの小説は信仰の問題まで踏み込んで描かれるので、その点はこの小説に物足りなさを感じた。この小説ではパッションという言葉が多く使われる。(続きます)
2018/07/23
遥かなる想い
妻子ある若い東欧の外交官と 女性教師との間の肉体的な情熱を赤裸々に綴った作品である。 ロマンスからは程遠い単純な肉体的な情熱を 丹念に描く。 自分自身の体験を 赤裸々に描いた著者らしい 恋の物語だった。
2024/10/29
感想・レビューをもっと見る