ブライトン・ロック (ハヤカワepi文庫―グレアム・グリーン・セレクション)
ブライトン・ロック (ハヤカワepi文庫―グレアム・グリーン・セレクション) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
主人公のピンキーは、ブライトンの街の悪党なのだけれど、童貞でカトリック。もうミサにはずっと行ってはいないけれど、それでもどこかで神様の存在を信じてる。なんたってまだ17歳。彼はいわば残忍な殺人者なのに、読み進めるほどに、いつしか不当に追い詰められる被害者であるかのような錯覚に陥る。そして、どこまでも執拗なアイダに読者もまた辟易してくる。何かと逆説的な構造を持った小説だ。ローズの告解で終わるエンディングも、多様な解釈がなされそうだ。ここでもまた逆説的で、終わりなのに終わらない物語なのである。
2017/01/30
遥かなる想い
当初「不良少年」という題で出版された この本は暗黒街に生きる人々を描く。 〈少年〉の冷静さが秀逸で、物語に 独特の緊張感を与えている.. 若さゆえの社会への反抗感のようなもの、 理不尽な怒りが冷静に描かれる.. ローズという少女の発想は若さゆえの ものなのか、そしてピンキーはどこに向かうのか ..暴走する若さを淡々と描く グリーン1938年の本である。
2016/09/19
ケイ
冴えた始まり方だ。男の不安に最初から付き合っているから、こちらも注視しているのに、気付くとやられていた。あっ気にとられる。犯人も追い詰める人も最初からわかっているから、2人の取る行動の一つ一つにハラハラしたり、イライラしたり…。これは、ミステリの形態を取った心理小説だろう。訳は丸谷才一氏なので読みやすく、あまり読者を選ばないタイプの作品ではないだろうか。悪は自ら露呈していく。『少年』と繰り返す書き方で、作者が言わんとすること、それをもっと読み取りたいとおもった。
2016/08/27
神太郎
久々のグレアム・グリーン。今回はピンキーという少年が殺人をおかしたのを隠蔽するためにあの手この手を使う。しかし、それを追い詰めるのは、飄々とした女性で……。序盤は飄々とした女性アイダが好きになれず、ピンキーサイドが面白かった。が中盤に差し掛かると正と不正を掲げるアイダの一挙手一投足と話術がピンキーらを追い詰めていく様が痛快でもあり、ピンキーの追い込まれていく様に不安が募っていく。敬虔な人ほど悪に堕ちるときは罪深いほどに堕ちていく。ピンキーもそして彼を信じた純朴な少女ローズもそうだったように。→
2021/04/25
星落秋風五丈原
【ガーディアン必読1000冊】ピンキーもローズもカソリック教徒で、ピンキーは自分の犯罪から、ローズはピンキーの犯罪を見逃してしまったことから、罪びととしての自覚がある。一方で追及する立場のアイダは神を信じていない。だから自らが罪びと二人に罰を下そうとする。だから自らが罪びと二人に罰を下そうとする。アイダが信じる「正と不正のけじめ」とピンキーとローズが信じる神への罪の意識とはずっと交わらないままだ。そして本書では、前者があたかも悔い改める後者を追い詰めていく悪のように描かれる。
2018/03/09
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