昨日 (ハヤカワepi文庫 ク 2-4)
昨日 (ハヤカワepi文庫 ク 2-4) / 感想・レビュー
だんぼ
小さな袋に入った白い粉末 私はそれが何であるのか知らない、その粉末を飲んでおくと 一日が早く過ぎる 自分をみじめに感じる度合いが小さくなる
2023/12/09
ヴェネツィア
『悪童日記』以下の3部作の後に書かれた小説。物語には特定の地名は出てこないが、前半と後半は、それぞれ東欧にある別の国のどこかだろうと思われる。主人公であり、物語の語り手でもあるトビアスは故国に居てさえ、その出生と、置かれた環境からロマのような存在であった。すなわち、デラシネであることを人生の最初から強いられていたのだ。リーヌこそが、彼を繋ぎとめる(何処に?)唯一の存在なのだろうが、彼女の全的な愛を得る可能性は閉ざされていた。そもそも、本当にそれを欲していたのかもわからない。おそらくはトビアス自身にも。
2013/02/17
Y2K☮
リアルと妄想が輪郭を失って混ざり合う感じと乾いた文体が一時期の中村文則に重なった。主人公とリーヌは共にアゴタ・クリストフの投影。リーヌの優しさの裏に潜む鼻持ちならないプライドは「私の人生は本来こんなはずじゃなかったのに!」という著者の悲痛な叫びだろうか。亡命によるアイデンティティの分裂とそれに伴う母国語との別れが、結果的に彼女の文学に得難い個性をもたらした。「悪童日記」三部作のインパクトには及ばないが、希望とも絶望とも縁遠い中途半端に生き延びる日々の虚しさが身に沁みる。結末の捉え方も読む度に変わりそうだ。
2015/10/19
優希
どこまでも惨めな表情で埋め尽くされていました。ただ1つの希望があるのが救いと言えるでしょう。幻想と不条理の世界の物語だと思いました。
2022/11/16
zirou1984
アゴタ・クリストフにとって読むこと、そして書くことというのは救いそのものであったのだろう。故郷から、母国語から、愛する人から切り離されながらも、それでも身を切るように言葉を紡ぐこと。その両手を祈るためではなく文字を連ねるために用いること。三部作の後に書かれた本作は今まで以上に自伝めいており、もはや弱さも嘘で隠そうとすることなく剥き出しに描かれている。最後の一文は図らずも著者のその後の人生と対応してしまった。それは救いだったのだろうか?自分は今も、こうやって嘘のような言葉を並べながら、ただ駄文を連ねてる。
2015/02/10
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