ベル・カント (ハヤカワepi文庫)
ベル・カント (ハヤカワepi文庫) / 感想・レビュー
ぱなま(さなぎ)
パーティの最中に副大統領の豪邸を占拠したテロ集団、しかし目的の大統領は国民的人気のテレビドラマが見たいために不在だった…滑稽な手違いから、数週間もの共同生活を強いられることになったテロリストと人質たち。音楽やチェスやテレビ視聴、そして語学の勉強といった一見暇つぶしのような活動を通して、俄仕立てのテロリストと人質が心を通わせるようになっていく描写は牧歌的とも取れるが、期せずして多くの人々が引きこもり生活を送る現在の社会情勢をみているために奇妙な親近感を覚えながらこの小説を読むことになる。結末は→
2020/07/05
Foufou
ペルー日本大使館占拠事件は私の母が入院した年の出来事であり、ある日に見舞った病室で母を含む女たちが事の顛末にさめざめと泣いていたのを覚えている。当時日本のマスコミもテロリスト側に同情的だった。虚構として人質に当代随一のソプラノ歌手を配し、時ならぬバカンス状態において、音楽の普遍性を一助に、人質同士、あるいは人質とテロリスト同士がする交流を描いて切ない。私見を言えば、プロットとなる二つの恋愛劇は秘めたるままにしたほうが終局における読者の悲しみは尚深く、そこに描かれた「永遠の一瞬」はより純粋に結晶しただろう。
2020/10/25
shouyi.
南米のある小国の副大統領官邸へテロリスト集団が乱入。その日いるはずの大統領を拉致し仲間の釈放を要求するためである。しかし、大統領はいなかったことから長期の監禁生活が始まる。そんな中にも、人と人の心の交流はあり、恋も生まれる。絶対にハッピーエンドにはならないと思いながらそれを心から願った。愛とは、人生とはと考えずにはいられない作品。
2021/05/23
ひっさん
南米の副大統領邸で開催されたオペラ歌手を招いた日本企業社長の誕生日パーティーが地元の若者テロリスト集団によって占拠される。はじめは極限状態をとっていたが、時間とともに、テロリストと人質の間に絆が生まれ、勉強や料理、娯楽から恋愛と立場や役割を越えて共同社会を形成する。 この小説では、「音楽の魅力」と、「人は社会的な生物であり、他者と関わるなかで影響を受けて感動をもたらす。」ことを感じることができた。 現状を維持したい思いと解放されたいという複雑な心情が考えさせらた。
2019/12/29
梅子
南米某国の副大統領邸宅で開かれた、日系大企業社長の豪華な誕生パーティが、左翼武装集団に占拠される。占拠状態が長期化する中で、人質とテロリストの間に奇妙な交流が生まれ、やがてそれは人々にとって人生最上の幸福となる。一生かかっても得られない喜びと幸福に、自分達が人質・あるいはテロリストという現実を忘却し始める。情景描写は詩歌のように美しく、登場人物も実に魅力的。人質事件を読んでいたはずの読者もそれを忘れていつの間にか幸福を享受している。だからこそ、夢から醒めた時の衝撃がいつまで経っても胸にずっしり残っている。
2019/12/29
感想・レビューをもっと見る