平田オリザ (1) 東京ノート (ハヤカワ演劇文庫 8)
平田オリザ (1) 東京ノート (ハヤカワ演劇文庫 8) / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
これは傑作。ここに表現されていることは、詩や小説では描きにくい。演劇の本質に根差した作品だと思う。美術館の片隅のロビーで、登場自分物たちが取りとめのない会話をしていくので、読み始めた時はなんだこの作品はと失望した。だが読み進めるにつれ、いろいろなことが浮かび上がってくる。戦争の危機。人々の無関心。芸術とは何か。人間の絆。こういった重要なテーマを、私が普段使っている口語を使って、鮮やかに描き出すに圧倒された。ラストが一際素晴らしく、胸を締め付けるような切ない気持ちを残して、この劇は幕を閉じる。
2016/09/02
Saki
舞台のDVD手に入れた記念に再読。ヨーロッパで戦争が起きた近未来、という設定。日本の美術館に、ゴッホやらフェルメールやら貴重な絵が避難して、それを見に来る人々がギャラリースペースで交わす会話が描かれている。まずこれが舞台として機能する、立体的に物語として動く際の役者さんたちに感心する。そして、頭の中でこれを考えついた作家にも感心する。物語が並列してるので、慣れるまで読むのは一苦労するけれど、描かれているのは私たちと同じ日常。でも少しずつ影を落として、その描写が上手い。色んな意味で「ありそうで怖い」。
モルテン
東京の小さな美術館。そこのちょっとした談話スペースを行き交う人々の会話。このお話の背景には、ヨーロッパ全土を巻き込んだ戦争があり(そのため、多くの美術品が日本に避難してきている)、登場人物たちは、その背景としての戦争について言及したりしなかったりする(でもどちらかというと対岸の火事という人が多い)。一方で、この話は人と人の脆く、繊細な関係をある家族を通して読者に示す。あぁ、おかしいな。何度も読んだはずなのに、やっぱりラストでじーんとしてしまう。「ちゃんと私のこと見て」の台詞に、孤独と、かすかな希望を感じる
2014/03/05
紫羊
これを演じるのは難しそう。舞台を観てみたい。
2021/06/23
Kとかいう人
脳裏に舞台を構成しながら読むのが楽しく、読んで良かった。登場人物たちは、何かを失ったことに悲しみを抱いているように見える。その喪失感は現実にも共通するものだが、実は現実の側にこそ強く、世を覆っているものだと感じた。「東京ノート」の人々からは、喪失感に塗りつぶされはしない尊厳のようなものが、まだ見受けられる。終幕で演じられる遊戯は悲しいが、美しくもある。我々は悲しい上に美しくもないだろう。
2010/11/12
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