イノセント (ハヤカワ・ノヴェルズ)
イノセント (ハヤカワ・ノヴェルズ) / 感想・レビュー
どんぐり
1955年、冷戦下のベルリン。ソ連軍の電話線を盗聴するために東西ドイツの国境付近に掘られたトンネル。そこに配属されたイギリス逓信省の青年が、ナイトクラブで出会った年上のドイツ人女性と恋におちいる物語。はじめは純粋でひたむきな愛、そこに元夫が現れ、狂気を伴ったものへと変貌していく、いかにもマキューアンらしい作品。死体を切り刻んでスーツケースに詰め込み、それを抱えてベルリンの町を彷徨する主人公。現実の苦痛や不安から時間感覚が麻痺したような解離現象も描かれている。『愛の果てに』という邦題で映画にもなった。
2017/07/06
藤月はな(灯れ松明の火)
マリアがアル中DV夫だったオットーの事を知っている事すらも忌々しくて仕方ないという感情は、私の父への蟠りで最も恥ずべき点と重なって共感してしまう。そして出歯亀しているオットーへのレナードの煮え切らない態度に癇癪を爆発させる様も。女と男の溝って何時までも終わらないんだよな…。そして机も切らないよう切断する感覚、体液、切断面から覗くものの描写には、同じseason2の第2話としてもHANNIBALよりもFARGOの方に、写実的エログロ漫画だとしても丸尾末広氏よりも古屋兎丸氏の作品に感じた気持ち悪さを覚えます
2016/03/05
パンナコッタ
個人的にイシグロと並んで現代英国文学の双璧といっても差支えないマキューアン四作目の長編。時限爆弾のように頁が進むと切迫する展開からミステリーとも読める。けど、それは一種の舞台装置であって初心な若者が時の悪戯からどこまでも出口の見えない長いトンネルに呑み込まれるような文学的滋味こそ醍醐味。娑婆の屈託のない陽射しさえくすんだ色に変えてしまう若気の過ちから閉ざされた愛を強固に築きあげられたベルリンの壁に喩える。でも、どこか前向きだ。だって終結する冷戦後の世界と同じくこれからの人生こそ本物なのだから
2018/01/08
Foufou
前情報なしで読み始めて冒頭から戸惑いの連続。なかなか入り込めなくて、これ、マキューアンではハズレなんじゃないかと何度も放擲しかかる。しかししかし、緻密な描写あっての味わい深さというのはやはりあるもので、気がついたらのめり込んでおりました。スパイ小説であり、恋愛小説であり、犯罪小説であり。ごった煮ならではの噎せ返る脂臭。目を覆うようなグロシーンが延々と続くかと思えば、突如ブラックな笑いへギアチェンジ。緊張と緩和ですね。やがて嗚咽必至の展開に。なんたる格調の高さ! これが長編四作目。なんたる変幻自在ぶり。
2024/06/13
yuuuming
中盤までの童貞喪失からの男ってほんと馬鹿ちんやなぁ…と思わせるくだりと、死体切断シーンでマキューアン節炸裂。前者はともかく、後者はまじでグロイ。体調悪い時に読むとしんどいものがあります。死体切断シーンはほんっとに…えぐくて読みながら超しかめっ面してしまった。
2012/12/01
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