恋 (ハヤカワ・ミステリワールド)
恋 (ハヤカワ・ミステリワールド) / 感想・レビュー
ジンベエ親分
感想を言葉にするのが難しい本。読み友さんの魅力的なレビューを読まなければ、自分からは決して手に取らなかったであろう本。小説は布美子の葬儀から始まり、死期が迫った彼女の姿と物語を終えた後日談は彼女が犯した殺人事件を取材した作家の視点から語られ、その事件そのものは布美子の回想録のような形式で語られる。片瀬"夫妻"に恋をする布美子は、そのために殺人事件を犯すことになるが、この尋常でない心情を読者に納得させる筆致はさすが。予告された破局に近づくにつれて息も詰まるほどの緊迫感に包まれた。そして優しいラスト。名作。
2018/02/09
美雀(みすず)
ただただ素晴らしいです。この世界観の良さを全力で引き出して、文章が力強くて引き込まれました。図書館本ですが…。後で文庫本も購入したいです。ドラマはどうだったんだろう?主要キャストは把握してるので、文章を追いながらキャストさんと重ねてしまいました。
2013/12/27
いろは
1995年直木賞受賞作品。浅間山荘の連合赤軍事件の時代の物語。とは言っても、連合赤軍事件の話題は背景としてあるだけで男女の官能物語だ。長い長いドラマを見ているような感覚で読んでいた。男女の官能物語だから、ドロドロしているが嫌悪感は感じなかった。それはきっと、信太郎が雛子を許しているところと、ふうちゃんが信太郎と雛子を慕っているところ、さらに信太郎と雛子がふうちゃんを慕っているところが大きな理由だと思う。しかしそれでも、この作品を読んだ他の読者の人達は、嫌悪感を抱いたり異常だと思ったりする人もいるのだろう。
スパイク
「そりゃ、変態オヤジや、殴る蹴るのヤクザ者とかもいるけど、お金のためって割り切ってるから。それにセックス好きな方だし。」なんて援交女子高生も知らぬ間に精神が崩壊して気がつけば手首切ってました…みたいな小説。倫理的に正しくない恋は結局、精神に支障をきたし破滅に至るという古典的なストーリー展開。ただ、この『恋』を失ってしまった時の、「虚無」ほど恐ろしいものはない。だから、破滅が見え隠れしていても歩みを止めることはできない。止めることのできる思いを『恋』とは呼ばない。それゆえ正しくない恋は正しく恋を終える。
2015/02/20
更夜
深紅のバラの花びらのような物語。恋をする、というのは男女だけの話ではなく主人公は「片瀬夫妻」に恋をする。ただの独占欲、嫉妬を超えた片瀬夫妻とのつきあい。最初は戸惑うものの、次第に片瀬夫妻の色に染まっていく前半。そして後半、その理想郷が崩壊する。美しいものをただ、美しいと描くのではなく、深みと奥行きと謎めいた微笑みでもって官能的、耽美的に描く文章の花が開く。時代は荒っぽい時代だったけれど、全くそれに毒されない人々の美しさとそれに翻弄される悲劇。下手するとただの通俗的な物語かもしれないですが、実に美しい。
2015/03/20
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