最初の恋、最後の儀式 (ハヤカワ・ノヴェルズ)
最初の恋、最後の儀式 (ハヤカワ・ノヴェルズ) / 感想・レビュー
どんぐり
異常性愛をテーマにしたマキューアンのデビュー作。男根をあざ笑うかのように描いた「立体幾何学」をはじめ、10歳の妹を近親相姦する少年の「自家調達(おうちでエッチ)」、小児性愛者の殺人を描いた「蝶々」、服装倒錯者のマダムを描いた「装い」など8篇。この反社会性を帯びた作品群に、非凡なる作家の才能をみることができる。本作はサマセット・モーム賞を受賞。マキューアンの短篇は、長編に比べて断然読みやすい。
2017/05/24
藤月はな(灯れ松明の火)
センシティヴな描写で奇妙な変態世界を描くマキューアンの短編集。変態世界と言っても乱歩のような淫靡さやソローキンのような因果関係も見いだせない事実の綿々とした羅列によって吐き気を催すものもなく、その場の感情の移ろい故に起きた変態をマキューアンは描く。「自家調達(おうちでエッチ)」の近親相姦で自慰を教えた年上の童貞少年への優越感を抱く場面の残酷さ、「蝶蝶」での猥褻行為を強要された少女の痛ましさと殺した男の静謐の差が悍ましい。猥褻行為をされてしまった子供はずっと忘れられず、引きずることもあるのに何が感傷なのか。
2016/03/18
安南
『押し入れ男は語る』『装い』など母性に取り込まれスポイルされる恐怖をグロテスクに描いた作品が秀逸。母性嫌悪の延長にある妊娠への不安が描かれた表題や、その反動のような小児愛を描いた『蝶々』そして小児愛 近親相姦を描いた『自家調達』(「おうちでエッチ」とルビが…)たしか、ひさうちみちおだと思うが「仕事とセックスは家庭に持ち込むな!」の言葉を思い出した。全体にイノセントな印象で、一人称小説は乱歩や夢野久作的なものを感じさせ馴染みやすく、好みの短篇集だった。
2014/09/23
踊る猫
レアなマキューアンの姿がここにある、と言っていいのだろうか。なかなかの強度を孕む処女短編集だ。再読になるのだけれど、改めて唸らされる。その日暮らしに近い生活、ウェットな恋愛(近親相姦含む)、幼少期への憧憬とにもかかわらずそこから否応なしに人は出ていって大人にならなければならないという葛藤――そういったものを、随所にイギリスらしい生活感漂うディテールを配置して端正に見せる。ここまで変態なモチーフをばらまいても作品自体が下品に堕さないところが流石、と言おうか。ベル・アンド・セバスチャンを聴きながら読みたくなる
2020/07/01
踊る猫
再読なのだけれど、あらかじめこちら側に「イギリスを代表する作家」という刷り込みが存在してしまっているせいかその色眼鏡から逃れられなかった。ケン・ローチや『トレインスポッティング』の世界がここにある、という。もちろん扱っているテーマはそうした映画とは異なり独自性を孕んだ充分に生々しいもので、新人がここまで書けたというのは凄い。だがその凄さや過激さに惑わされず読めば(という読み方は間違っているのかもしれないが)、実は極めて古風な完成度を備えた作品集であり正統派と言ってもいいアプローチが為されていることに気づく
2022/07/31
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