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恥辱

恥辱

恥辱

作家
J.M.クッツェー
J.M. Coetzee
鴻巣友季子
出版社
早川書房
発売日
2000-12-01
ISBN
9784152083159
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恥辱 / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

クッツェーは初読。南アフリカの英語文学。訳者あとがきによれば、本作は彼には珍しいリアリズム文学とのこと。たしかに、主人公のデイヴィドの心情表現をはじめ、彼を巡る個的な環境から、社会的な環境にいたるまで徹底してリアリズムが貫かれており、それは読者にも苦い想いの共有を強いる。デイヴィドは52歳ですべてを失ってしまったともいえるし、またその反対に、この地点からこそ本当の自分自身に向かい直す旅が始まるのだともいえる。また、物語の背景をなし、彼ら父子を翻弄しもする南アフリカの現実は、どうしようもなく不条理である。

2015/01/03

どんぐり

クッツェーのブッカー賞受賞作。ワーズワース研究家の52歳の大学教授が女子学生と出会い、肉体関係を強要する。見境もなく関係を続けていくうちに学生からセクハラで訴えられ、その際、「突然エロスの神のしもべになった」と弁明するも受け入れられず、懲戒免職となる。これがこの男の最初の恥辱。二度の離婚経験がある教授は、ケープタウンから東ケープ州セーレムの田舎町に住む娘ルーシーの農園に転がりこむ。すると今度は、黒人3人組の少年たちによる押し入り強盗に遭う。トイレに閉じこめられている間に、娘のルーシーはいいようにされてしま

2015/08/08

NAO

教え子とのトラブルで懲戒免職になったという恥辱と、その後南アフリカのアパルトヘイト撤廃後の不穏な情勢の中で娘が受けた恥辱。レイプ、強盗事件、失業、人種問題、動物の生存権など、南アフリカの多くの問題を浮き彫りにした、かなり衝撃的な作品。その一方で、数々の辱めを受けながらも、どこか自分を装っているような主人公の奇妙な雰囲気が気になった。どうやら西洋文明を象徴してているらしい典型的な西洋のインテリである主人公が徹底的に打ちのめされるさまは、作者がそれだけ強く批判しているということなのだろうか。

2015/11/13

アキ

52歳ケープタウン大学教授。20歳の教え子と関係を持つ。男の欲望の暴走と自分本位の都合のいい解釈、その見返りは高くつく。娘との田舎暮らしでもいつしか離婚した妻と同じような関係に陥る。娘に近づきたいが自立した娘は容赦ない。娘のその土地に生きる決意は揺るがない。たとえ理不尽な恥辱があろうとも。教え子との秘め事がたびたび脳裏に甦る。作者はこの小説の中で主人公を常に「彼」と表現し遠くから冷徹な目で眺めているよう。バイロンとテレサのオペラは完成せず、「彼」は犬と同様朽ち果てるのを待つのみ。娘とはわかりあえないまま。

2018/12/18

らぱん

文学は素晴らしいと言いたくなる傑作。南アフリカのポストアパルトヘイト小説だがストレートな差別問題の糾弾ではない。三人称による冷徹な眼差しの硬質な文体で男の心情を語る。徹底した突き放しぶりで、読み手は彼に共感できなくても彼を共有することになる。前時代を生きた男はすでに人生の折り返し地点を越えており、頑なな自負も矜持もある。そんな彼が「ちょっとしたしくじり」で転げ落ち、いくつかの「審判」を受け、世界の認識を変えていく過程が卓抜だ。犬として生きていく恥辱の受容は、新しい価値観の獲得とも言えるのではないか。→

2019/03/23

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