ベル・カント
ベル・カント / 感想・レビュー
ふう
読み始めてすぐに、物語の中に、テロリストたちに占領された官邸に、わたしも閉じ込められてしまいました。銃で見張られてはいるけど、残酷な考えも行為もなく、むしろお互いを尊重し合い、一定の秩序の中で穏やかに生活する人質とテロリストたち。そこは、外界にある不必要なものを省いて、大切なものだけで満たされたとても豊かな空間でした。大切なもの…美しい芸術への憧れと尊敬、言葉を超えた信頼感や愛情。一人一人の思いがていねいに描かれていて、気づかないだけで人はみんな豊かなものを持っているという作者の思いが伝わってきました。
2017/02/15
らぱん
面白かったが釈然としない。96年のペルー在日本大使公邸人質事件を題材にした物語で、人物は丁寧に描かれそれぞれに魅力的で、4ヶ月の共同生活で信頼や愛情が育まれることに説得力はある。ぽっかり空いた時間で、人生を見直し新しい自分を発見し今を生きることを覚える。疑似家族に愛情を持ち、それまでが過酷であった者ほど余計に現状維持を望むようになる。ここが楽園だからだ。読者は実際の事件を知らなくても、それが永遠に続くわけはないとわかっており、そこが読ませどころになる。…いい話なのだが、そのいい話なことが返って微妙だ。↓
2020/08/19
かんやん
96年のペルー在日本大使公邸人質事件にインスパイアされた、02年ペン/フォークナー賞、オレンジ賞ダブル受賞作品(フィクションだから設定はずいぶん変えている)。色々と当時を思い出して、感慨に耽る。目的の大統領が不在のため、犯人グループは人質をとって立て篭もる。初期の緊迫感は続かず、しだいに人質とテロリストに交流が生まれてくると、事件の結末を知っているから、ハラハラヒヤヒヤするという仕掛け。何かこの世のものとも思えないような時間限定の楽園が生じてくるわけである。そこにどれだけ説得力があるのか。
2020/08/04
宮永沙織
実際に起こった事件をモチーフにした物語。テロリスト集団に占拠された数日の間に人質と心を通わす事になる。そこにはロクサーヌという歌姫がいたから。そんな夢のような日々はやがて終わりを告げる。 人を殺さないで物事を進めようとした優しいテロリストたちの結末は涙を誘います。
2011/02/21
ブラックジャケット
モデルは1996年にペルーで起きた日本大使公邸占拠事件であることは自明。この設定に世界的ディーバのロクサーヌ・コスと巨大エレクトロニクス企業の社長ホソカワとその部下で通訳のゲン・ワタナベを加え、読みごたえのあるドラマに仕立てた。しかもメロドラマを起動させる。最後は突入した特殊部隊にゲリラ全員が射殺されたことが頭にあり、虚実ないまぜのフィクションが、どこに着地するか読書の醍醐味を味う。二組のカップルの愛、少年兵のオペラ歌手への目覚め、これらが突入した特殊部隊によって血まみれにされる。終章の驚きもまた良し。
2019/12/12
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