ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)
ユートロニカのこちら側 (ハヤカワSFシリーズJコレクション) / 感想・レビュー
みっちゃん
あらゆる個人情報を提供する事によって、居住が可能になる巨大リゾート「アガスティア」複数の登場人物の人生を緩やかに交錯させながら、常に知られている事を、何の疑念もなく受け入れる者と耐えられず切り捨てられる人々が描かれる。淡々とした筆致が却って、人々の葛藤を顕にしているように感じたし、打ちのめされても、また立ち上がるぞ、という結末も良かった。自由とは、突き詰めれば何なのだろうか。
2016/02/06
あじ
(第3回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作)海外を舞台に監視社会を描いた作品。SFとして読むと若干骨組みに心もとなさが伴うが、いやいや実年齢を遥かに上回る筆力に瞠目したのだった。作者は86年生まれだというから、発表時点で20代である。只者じゃない空気を纏う新鋭に、私は身を震わせた。これから更に腕を磨けばどうなることか。人間の深層を鋭利に抉る、油断なき作家に化けるのではないかと未来予想をせずにはいられない。活躍が期待される作家だ。
2016/01/01
クリママ
近未来、自分の情報をすべて明け渡す代わりに、仕事をしなくても安全、安心に暮らせる、企業とサンフランシスコ市によって運営される島。そこに暮らし、24時間監視される生活に耐え垂れず病む人たち、犯罪傾向を察知すれば犯罪を起こす前に逮捕することができる法律… ユートピアを目指すはずがディストピア。現実に戻れば、個人情報はすでに管理され始めていて、私たちの未来もこうなっていくのかもしれない。それは安全で快適なのか。自由はあるのか。怖ろしい。まるで海外の翻訳を読むような文章。著者のデビュー作であることも怖ろしい。
2023/06/24
藤月はな(灯れ松明の火)
入れば一生、働かなくても済み、サーヴァントによって全てがお膳立てされるユートピア。その代価は自分の経験や情報を全て企業に明け渡し、大衆による無限のアクセスを認めること。このパプティノコンの最終形態に慣れない人は常に監視されている感覚に精神を苛まれる。もし、パプティノコンで生き続けるためには意識を捨てるしかない。『PSYCHO-PASS』、『ハーモニー』でのユートピアの完成によって生じる意識の必要性を物語を通して首を真綿で絞めるように問いかける。自由は不自由を自覚してそこから解放されない限り、自覚できない。
2016/01/28
Kanonlicht
著者の作品はこれだけ読んでいなかったので、これでやっとコンプリート。視覚などのプライベート情報をすべて提供することで労働しなくても生活が保証されるようになる特別自治区にまつわる連作短編。デビュー作にしてすでに著者の持ち味の独特な言葉のチョイスが発揮されていて、ずっとこの世界に浸っていたくなる。一つの街とそれに翻弄される人々を描いていることからも、これを実際の歴史と絡めて昇華させたものが『地図と拳』なんだと納得。もうちょっとぐらい救いがほしかったかな。
2024/07/05
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