特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー: ノーベル文学賞受賞記念講演
特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー: ノーベル文学賞受賞記念講演 / 感想・レビュー
nobi
最初は受賞講演というより久しぶりに会った遠い親戚の叔父さんが生い立ちを話し出した、的語り口。彼が大学院創作科の時に滞在したノーフォーク州の小さな村の平らに広がる農地と屋根裏部屋が目に浮かぶ。そののどかに見える生活の中で“差し迫った思いに取りつかれ”“生まれた町、長崎”について書き始めたのが「遠い山なみの光」。その後もturning pointに導かれるように作品が生まれる。失われた時を求めて、トム・ウェイツ、特急二十世紀、収容所訪問…。どこか使命感を帯びた創作活動へ。この時代文学が果たしうる役割を訴える。
2019/01/20
kaoru
左ページが原文、右ページが訳文という作りの本。5歳でイギリスに渡った著者が作家を目指すに至る経緯と日本に対する思い、『失われた時を求めて』に多大な示唆を受け、『日の名残り』の執筆の際にはトム・ウェイツの歌唱にインスピレーションを得た。幼少期から「リベラルで自由主義的な価値観」を信じてきたイシグロはそれが幻想であったかもしれない、と近年感じるようになる。「全体主義がはびこり…歴史上類を見ない大虐殺がはびこるヨーロッパを年上の世代が見事に変身させるのを見てきた」彼の世代は、今や極右思想やナショナリズムが⇒
2021/05/17
優希
カズオ・イシグロのノーベル賞に関わる公演になります。小説を書くことはひとつひとつの出会いなのかもしれませんね。これからはイシグロ作品を読むたびに同じ風景を見るのでしょう。
2023/09/03
MAEDA Toshiyuki まちかど読書会
翻訳家の土屋政雄先生の講演があり、その会場に早川書房の特設販売所が設けられ、そこで購入。講演を聞いた後、読むとカズオイシグロのメッセージがしみじみと心に染み入る翻訳だと改めて納得する。英語が苦手な私にとって翻訳家は偉大な存在です。正確な英文理解と正確な文脈把握にもとづき、自分の中の日本語に照らし合わせて、納得が行くまで日本文を書き直す。土屋先生の翻訳は誠実な職人仕事であり、そのおかげでカズオイシグロ作品を読める幸運に、改めて土屋先生に感謝します。
2018/03/11
mayumi225
いつからかもう,私はカズオイシグロその人とその文章に恋をしているわけですが,このスピーチは彼の肉声が聞こえてくるようで,至福の読書時間でした。スピーチはやはり原文でなければ流れや間が味わえませんが,その意味でも英和対訳の本書はとてもセンスがいい。彼自身の人生の段階ごとに,あの作品,あの場面,あの構想が生まれた瞬間の創作秘話なども散りばめつつ,親密で,謙虚で,深い思索と展望のある内容でした。軽やかなのにね。珠玉です。
2018/02/17
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