その丘が黄金ならば
その丘が黄金ならば / 感想・レビュー
buchipanda3
「老虎(ラオフー)、老虎(ラオフー)」。移民として西部に夢と居場所を求めた中国系の家族の物語。ゴールドラッシュ後や大陸横断鉄道の頃を彷彿させるが敢えて時代を限定していないようだ。詩的な文章が読み手を現実と幻想の狭間で彷徨う容赦ない物語へググっと引き摺り込む。ホームの地を得るために不条理に耐え、がむしゃらに生きる姿、五人家族の夢。失われた後でも両親の心を背負う二人、失わない矜持。何があれば家は家になるのか。それらが著者の愛に似た悲しみで愛おしく描かれていた。黄金の丘陵に溶け込む太古のバッファローの姿が残る。
2022/08/16
ずっきん
ゴールドラッシュが終焉を迎えたアメリカ西部。乾ききった土地。虎の暗喩。中国人一家の娘ルーシーが語る物語は、あらゆる鈍色の糸を織り込み、歴史という風になぶられながらも美しくたなびく。そしてどんな時代であろうとも映え続ける強靭さを持つ。どんなジャンルでも新しいドアはあるのだな。文章をなぞっていくだけで、情景と心情が止めようもなく雪崩れこんでくる。強い衝動すら覚える。ものすごい疑似体験をした。すっかり取り込まれてしまって、尾を引く余韻の中で構成の巧みさにも感嘆する。ああ、畜生。文学ってすごい。
2022/08/29
ナミのママ
巻頭からの現実感が感じられない文章に思わずひいてしまった。50頁くらい読んでダメなら諦めようと。ゴールドラッシュが過ぎた後のアメリカが舞台らしいとあらすじで知る。母を亡くし父と暮らしていた12歳のルーシーと11歳のサムは父も死んだことに気がつく。そこから始まる物語。不思議にこの幻想的とも言える霧の中のような文章が想像力をかきたてる。2人の子供は父の亡骸を葬る場所を探して旅に出る。旅の様子と両親の過去が混じりあう。なんとも不思議で印象的な世界を楽しんだが、本当の奥深い部分まで読み取れていなかったかも。
2022/09/04
ヘラジカ
化石となりつつあるウェスタン小説に新たなる視点、力強く清冽な息吹が齎された。まさしくコーマック・マッカーシーやトニ・モリスンのスピリットを感じさせる傑作である。デビュー作であることを考えるならば、その大作家両名に引けを取らない力量を持っていると言って過言にならないのではないか。過酷な物語とコントラストを成すような詩的で美しい表現に舌を巻く。いつの時代を描いても「新しさ」を生み出すことができる文学に、改めて無限の可能性を感じた。どうしても国境三部作を思い出し、作者の中に続篇の構想があることを期待してしまう。
2022/07/21
星落秋風五丈原
ゴールドラッシュ時代にアメリカにやってきた中国人一家の物語。語り手や時制の入れ替わりあり。ルーシーとサムのきょうだいが辿る運命。確かにブッカー賞好みの構成だ。うねうねしてる。お母さんがすごく魅力的だったみたいですね。あーやっぱ訳うまいなあと思ったら藤井光さんだった。
2022/10/17
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