グレイス・イヤー: 少女たちの聖域
グレイス・イヤー: 少女たちの聖域 / 感想・レビュー
パトラッシュ
『侍女の物語』以来、女性蔑視のディストピアが舞台の文学は多いが、いずれも「なぜそんな世界が出現したのか」を明確に説明していない。少女に魔力があると信じられる社会で、16歳になると森の奥に1年間追放される異様な成長の儀式を描く本書も同様だが、ヒロインのティアニーが狂気と恐怖に支配されたキャンプを戦い抜き、分裂し打ちひしがれる仲間を希望で導くプロセスは圧倒的だ。強要される結婚ではない愛を知り、自立した女性として目覚めていく姿は真の恩寵を獲得する力強さに満ちており、「私たちは決して絶望しない」と宣言するようだ。
2022/12/18
がらくたどん
意図的な閉鎖性と男尊女卑の保持を貫く共同体で思春期の少女に課せられる1年間のキャンプ生活。深い森での苛烈なサバイバルは幼少期からの自尊破壊教育の成果を反映し、唯一父親から科学的思考を伝授された主人公の奮闘虚しく連帯には向かわず弱者がより弱者を作って偽りの相対的優位を夢想するという絵にかいたような分断ゲームへなだれ込む。一貫して主人公の視線で苦しみ傷つきながらも森を山を走り抜ける事ができるので読み惑うことはない。最後はジェンダーを超えた人間の分断への問いまで連れて行かれる。一般書でなくYAで正解かも。良作♪
2023/01/25
ナミのママ
ディストピア小説。男尊女卑のガーナ郡では16歳を迎えた女性達が森のキャンプに送り出される。そこで魔力を解き放ち清らかになり戻ってくる事を求められている。さらに出発前には結婚相手を決める選別までされる。は?何それ?腹立たしさと、ふがいなさ。ハラハラし、悲しくせつない、そして圧倒されるサバイバル。すべての感情を波立たせる凄まじいストーリー。怖いのはこの女性をめぐる世界観が現代にも通じてしまうこと、そして登場人物の愚かさがそのまま現代女性に重なること。インパクト大、一気読みの作品だった。
2023/01/09
J D
表紙裏に「蝿の王」の一文が引用されていた。最初の数十ページは、そんなに面白くもないし、スピード感もなく、読むという動作継続のためにページをめくるそんな感じだったが、ガーナーのゲートが開くと一気に読みたくなるような作品だった。キルステンには、言いたいことは山ほどあるが、彼女にも言いたいことはあるだろう。表紙絵はティアニーだろうか?読了後にこの目を見ると生き残る力強さを感じた。「蝿の王」に似た匂いのする作品。決して「十五少年漂流記」ではない。たまには、こんな作品もいいなと思った。
2023/09/06
美紀ちゃん
すごいものを読んだ!という読後感。アメリカの作家が書いた本。恐ろしい話だった。ジェンダー問題どころではない。みんなで生き残るか、ひとりで死ぬか。女性同士が手を取り合って闘うことが世界を変える道。それにはまず、見方を変えること。ティアニーの生きる力、立ち直る力が素晴らしい。後から気づくのだが、両親も姉もティアニーに生き抜いて欲しいと希望を託していた。ライカーとの未来は、太陽のようだった。勇敢なティアニーを、ライカーは最初から認めていたのだと思う。映画化されるそうで、ぜひ見てみたいと思った。すごかった。
2022/12/11
感想・レビューをもっと見る