ウッツ男爵: ある蒐集家の物語
ウッツ男爵: ある蒐集家の物語 / 感想・レビュー
らぱん
小説の愉しさを味わえる小粋な逸品で、著者自身を思わせる男が一度だけ会ったことのある蒐集家の訃報に接し彼の生涯を辿るという筋立てになっている。蒐集家は美学を持った生き方なのだと知った。蒐集にとってどう作用するかが考えるべきことで、戦争も革命も体制も、時には利用し阿ることも厭わない。優先順位が決まっていれば当然だ。それにしても彼の博識は素晴らしく、蒐集物のみならずプラハの街を披露する様子が抜群にいい。彼と男の機知に富む会話の洒脱さが素晴らしかった。物語は黄昏時のプラハの迷路を辿るように惑わし閉じていく。↓
2019/05/15
YO)))
マイセンの蒐集家ウッツ男爵を語る「私」は、実は信頼できない語り手で、物語の後半でこれまで述べてきたことについて「私が想像したようなものではなかった」みたようなことを言い放ってしまうのだけれど、それは小説的な企みというよりも、著者一流のサバサバした割り切り=ある種ポジティヴな諦念 のように思われて、寧ろ心地よい。 即ち、他人が後追いで捉えられる事実など常に曖昧かつ断片的なもので、当事者以外には解き得ない謎などいくらでもあるのだ、というような。
2018/03/23
三柴ゆよし
マイセン磁器の蒐集にとりつかれた変わり者ウッツ男爵の謎めいた晩年を、語り手である「私」が探るというストーリーはミステリ仕立てになっていて、物語としてもまあ楽しめるのだが、本書最大の魅力はなんといってもウッツ男爵が暮らすプラハの街の憂愁に満ちた雰囲気と、軽妙な会話に乗せて開陳されるペダンティックな知識の数々。おそらくは作者の体験に基づく骨董談義から延長されたうんちくは、いつしかユダヤの秘儀ゴーレムや錬金術にまで及び、迷宮にも似た古都プラハの夜をあやしく彩る。小説家としてのチャトウィンもなかなかやりおる。
2011/10/11
多聞
チャトウィンはノンフィクションに限らず小説においても魅力的な語りの技術に長けていて、ますます彼にのめり込みそうだ。本作はマイセン磁器のコレクターであったウッツ男爵の謎に覆われた晩年を追う形式となっており、時折挿入されるウッツ男爵とコレクターたちによる会話がコレクションからゴーレム、錬金術にまで発展していく。できることなら、チャトウィンには長生きしてもっと執筆を続けてほしかった。
2013/02/06
erierif
人の名前と分かりにくいけど原題とおり『ウッツ』がいい。なぜならそこに『黒ヶ丘〜』とも共通するテーマがあるから。ウッツ男爵はマイセンの人形のコレクターで、物語は彼のさみしいお葬式から始まる。彼の印象もパッとしない。ただしコレクターとして非常に抜け目なく審美眼はかなり発達している。金持ちで蒐集のテクニックがあり、ペダントリーな知識の披露、駆け引き等、サザビーで活躍したチャトウィンならではのリアルな描写だった。コレクターとは?人生にとって尊いのは?と、最後に勝った者が鮮やかに示す。
2015/05/10
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