花を運ぶ妹
花を運ぶ妹 / 感想・レビュー
クリママ
パリでの留学を経て、海外で暮らす通訳、コーディネーターの妹。1年の半分以上をアジアで暮らす画家の兄。ヘロインの不法所持でバリで逮捕される兄。減刑に奔走する妹。交互に語られる兄妹のこと。兄は自己の内面に沈み、過去をたどる。それは再生への手順だ。パリ、バリも知らず、ヘロインももちろん知らない。知っていればもっとわかったのかもしれない。が、心の内面に下りていく思考に思い当たるものがある。結末は安易にも感じられた。しかし、そんなことは問題にならない重みがある。
2017/05/21
James Hayashi
インドネシアで麻薬保持で捕まり、裁判にかけられる兄哲郎。妹のカヲルは親身になり兄を助けようと試みる。インドネシアでありながら、バリはムスリムでなくヒンドゥー。そのような状況が語られ、哲郎と不思議な魅力を持つ独人のインゲボルグが膝を交え哲学的に語って行く様子。現地の言葉を理解しないカヲルであるが、極刑をのぞむ現地警察との対峙。なんともヘロインを吸った哲郎の観る世界に驚かされる。エキセントリックな人々がバリという魅力に富む地に集結する様子に時間を忘れた。毎日出版文化賞受賞作。今年のベスト20に入るであろう作品
2017/04/02
fishdeleuze
画家である哲郎の麻薬への耽溺、トリップ中に子供を見殺しにしてしまったという罪の意識、離脱症状の悪夢、そして回復に至るまでの描写がとても生々しい。擬似的な死、そして再生。またカヲルが高台から岩にあたり崩れた波が飛沫、泡となり、また新たな波が混ざり合い、水と白い飛沫の泡があたかも生きているかのように動いている様子を見て、意識が変わった時の描写も印象に残っている。時折交わされる美についての会話やバリの自然や音楽の描写も音が聞こえてくるようだった。そして相変わらず池澤作品に出てくるヒロインはチャーミングだ。
2015/04/28
つゆき
麻薬の誘惑と罠、絶望と再生の物語。心理描写の巧みさと、風景描写の美しさが深く印象に残る。洗練された文章に惚れ惚れした。かなり満足。読めて良かった。
2010/09/06
ウメ
圧倒的な力を前に、人は祈り、願う。宗教について直接的な表現は少ないが、祈りとは、と終始問い掛けてくる。懸命に祈ることで、神は憐れみからこちらを向いてくれて、そこに信仰や御利益といったものは必要ない。
2013/03/12
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